ゴミ本なんてない

色々な本の読み方の提案をしているブログです。

2018年読んで良かった本ベスト15

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こんにちは、そしてお久しぶりです。あっという間に一年も過ぎ、今年読んだ本の振り返りをするタイミングにまでなってしまいました…。皆さんにとっての2018年はいかがでしたでしょうか?自分は、このブログに加えて読書アカウントをTwitterで始めたこともあってか、今までの読書人生の中でも最多の150冊近くを読み、しかもそのほとんどが名著という、奇跡のような一年を過ごすことができました。

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海外名作古典・SF・ロシア文学を中心に読んだのですが、今回はその中でも特にオススメの15冊を紹介させていただきます(昨年のオススメが8冊だったことを思うと本当に沢山の良作に出会えた一年だったんだなぁとしみじみ…)。

第15位「氷の城」タリエイ・ヴェースオース

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氷の城 (1972年)

ノルウェーの作品、初っ端から絶版本を選んでしまった…。けれど大変な名作なので、紹介せずにはいられない!常に人の輪の中心にいる主人公シスと、転校生で同い年の寡黙な少女ウン。見えない風に押し吹かれるように出会った二人は、互いの中に自身の姿を見る。しかし、ある日ウンは興味本位で訪れた氷の城に囚われ、帰らぬ人となり。事情は知らないものの、沈黙の誓いを立て、大人達の催促にもかかわらず頑なに口を噤むシスは、やがてウンの様に周囲から孤立してき…。少女の成長を北欧の厳しい冬から春の雪解けまでに重ね描いた一冊。不思議な本だったけど、氷の城の描写が、とにかくひたすら、息が凍りついて呼吸をするのを忘れる程、綺麗だった。目に氷麗の雫が垂れ落ちても瞬きが出来ない程、ただただ文章を見つめ続けたくなる様な、人生で一番美しい読書体験で。夏も盛りのうだるような暑さの中で読んだのですが、息が詰まる程冷たく、骨の芯までキン、と響くような美しい小説を読むのも、なかなか風情があるかもしれません。

第14位「火星年代記」レイ・ブラッドベリ

火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)

火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)

人類が初めて火星に降り立ち、侵略し、第二の地球を創り上げるまでを描いた短編集。火星人の肋骨で戯れる子供達、死んだと思っていた息子との最後の夜、地球人の大量入植を見越して開いたホットドッグスタンド。地球人と火星人、生者と死者の悲喜こもごもが、重層的なハーモニーとなり心を打つ。読んでいる間中、「ブラッドベリィィィィィ 好゛ぎィィィ」状態になり悶絶した本。『火星年代記』はSFじゃないこれは純文学や!括るならカズオ・イシグロの『日の名残り』とかジュンパ・ラヒリの『停電の夜に』と同じジャンルや!「火星興味ねーし」と今まで手を出さなかった自分を殴りたい。全っ然読み終わりたく無かった…一番最初の「ロケットの夏」の小編の、とある一文で、一気にブラッドベリの世界に惹き込まれました。是非ご堪能あれ。

第13位「狂人の船」クリスティーナ・ペリ=ロッシ

狂人の船 (創造するラテンアメリカ)

狂人の船 (創造するラテンアメリカ)

  • 作者: クリスティーナペリ=ロッシ,Cristina Peri Rossi,南映子
  • 出版社/メーカー: 松籟社
  • 発売日: 2018/07/01
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る

最も深く、不穏な海に狂人達だけが乗った船を置き去りにする、そんな昔話から。創世記のあの男女を描いたタペストリーまで。祖国を追われ、各国を放浪し続ける男エックス(X?)が見聞きした物、出会った人々が、大事に大事に陳列されたような一冊。なんだこれメッチャ好き…。旅人を扱った作品にほとほと弱いんだよなぁ…。弾圧を逃れるためにウルグアイを去った筆者の投影であろうエックス。永遠に「異人」「外人」であり続ける彼に、自分を重ねずにはいられなかった。結局誰しもが異人になり得るのに、それを認めたがらないのは何故なのか。彼のぼやきに頷かずにはいられない。また、老女との性行為や小さな男の子との同性愛という、一般的には無為、時には狂人のそれとされる行為が散見されたのも興味深い。究極の愛の証明とは、男性性の放棄である、という作者の強い思いが汲み取れた。 全体的に微睡みの中に揺蕩うような作品で、読んでいるとトロトロとした気持ちの良い眠りに誘われる。そして必ずと言って良い程、夢を見た。顔は朧げで、誰だか分からないけれど、どこか懐かしい人が訪ねてくれる夢。何度も繰り返し見たくなる夢を見るために、ずっと手元に置きたい不思議な一冊だった。

第12位「宇宙飛行士オモン・ラー」ヴィクトル・ペレーヴィン

宇宙飛行士オモン・ラー (群像社ライブラリー)

宇宙飛行士オモン・ラー (群像社ライブラリー)

アメリカとの冷戦真っ只中のソ連。幼少期から宇宙飛行を夢見ていた少年は、政府の示威活動の一環として、ついに月面探査の任を得る。しかし、彼を待ち受けていたのはグロテスクなまでの大人達の欺瞞だった。次々と同士の少年達が斃れる中、果たして彼の運命はー。

ロシアの若手作家の作品。終始ウーウー唸りながら読むも、頁を繰る手が止められなかった!主人公に課されたミッションはあくまで月面の「自動」探査。しかし実態は…次々と暴かれるソ連の嘘とそれを支える生贄達。核実験が実は何万人もの囚人を空から同じタイミングで落としたものだった…を始めとする荒唐無稽な「事実」を知れば、もう、泣きながら笑うしかない。しかし、この作品をフィクションと一笑に付す事は決して出来ない。現に何度も同じ様な「馬鹿馬鹿しくも英雄的な行動」は繰り返し求められたではないか。この作品内でも主人公の教科書に載るのは神風特攻隊の「勇姿」。ソ連と現代日本の精神性は相違よりも共通点の方が多いのではないか。是非沢山の人に読んで欲しい。

第11位「ロリータ」ウラジミール・ナボコフ

ロリータ (新潮文庫)

ロリータ (新潮文庫)

「ロリコン」という単語の生みの親、そして言葉の魔術師による代表作。原文の英語で読んだのですが、冒頭の一節で雷に打たれたかの様な衝撃を受け、しばし放心。"plain" "slacks" "school" "line"など「L」の音がふんだんに使われ、読むと跳ねる舌は、まさしく主人公の愛玩少女ロリータの子供の姿。そんな彼女が肉欲の対象となっているその皮肉も同時に伝わります。日本語訳では新潮文庫の若島訳より、実は大久保訳の方がしっくり:

「ロリータ、わが生命のともしび、わが肉のほむら。わが罪、わが魂。ロ、リー、タ。舌のさきが口蓋を三歩進んで、三歩目に軽く歯にあたる。ロ。リー。タ。」

この一節だけのために本作を読んで欲しいし、この一節が物語の全てを集約していると言っていい。

大筋は主人公ハンバート・ハンバートが運命のいたずらから未成年の少女を義娘にするに居たり、ついには手を出し、約一年余り彼女を囲いながらアメリカ中を逃亡する話なのですが、とにかく始終、ナボコフの文才に唸り、悶え、惑わされる事を禁じ得ません。小児性愛を美化しようとする主人公に嫌悪感しか湧かないはずなのに、彼がのたまう愛ゆえの庇護だ、という釈明に呑まれてしまいそうに。ナボコフの絶技に翻弄され、ただ、ただ、悔しいです。 冒頭が有名な本作ですが、実は最後の一文も酷く美しいので、興味が湧いた方は是非最初から最後までこの美酒の様な作品に酔い痴れてください。

第10位「猫のゆりかご」カート・ヴォネガット・ジュニア

猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)

猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)

カート・ヴォネガット・ジュニアが未読な人は今すぐこれを読むんだ!早く、手遅れになる前に!やばい、酒と薬やりながら書いたんじゃないかコレ、と疑いたくなる程に荒唐無稽、なのに、ページを繰る手が止まらない!馬鹿馬鹿しくて笑ってしまうようなストーリーの中に、ハッと目を見張り生唾をゴクリと飲み込んでしまう程の、社会への批判や警告を織り込んだ、作者の得意技がバッチリと決まった一冊です。金曜夜、たまには外出せずに、宅飲みしながら読んでみては。意っ味不明ですが一応あらすじも置いておきます:

広島に原子爆弾が落とされた日、アメリカの著名人がそれぞれ何をしていたかを取材するために、まずは原爆の開発者であった物理学博士の息子にコンタクトを取った主人公のジョーナ。やがて彼は、博士があらゆる液体を氷へと固形化する「アイス・ナイン」を発明していた可能性を知る。紆余曲折を経て、ジョーナは奇妙な一団と共に、独裁者の統治の下、ボコノン教という新興宗教が普及しているサン・ロレンゾ島へと到着するもー。世界が終わる最後まで、人が縋るべき真実とはー。

第9位「荒野へ」ジョン・クラカワー

荒野へ (集英社文庫)

荒野へ (集英社文庫)

裕福な家庭に生まれ名門大学もそつなく卒業した青年は、大学院への進学を望む親の期待には沿わず、ヒッチハイクの旅に出る。ついには現金を燃やし食料も最低限しか持たず、アラスカの荒野に分け入っていった彼は、数ヶ月後、打ち捨てられたバスの中で餓死した姿で発見される。何が彼をそこまで駆り立てたのか。登山家の経験を活かした筆者が丁寧に追ったルポ。

二年前から読もう、読もうと寝かせて楽しみにしていただけあってメチャクチャ面白かった。アラスカの大自然と冒険に取り憑かれた男達の小エピソードにも心惹かれる。青年が読んでいた名著から抜粋した各章のエピグラムも良い。何より程度は違うにせよ、彼に共感せずにはいられなかった。人に構われたくない。一生放浪していたい。そんな思いもあり、異国の砂漠で生活していたことや、19歳の時に四国自転車遍路をしたことを思い出した。結局熱中症で33番で打ち止めしたが、有り余るエネルギーを何かにぶつけたかった。ただやってみたかった。とにかく滾る気持ちが抑えられなくなる一冊。できれば十代、二十代の内に読んでおくことを強くオススメします。

第8位「伝奇集」ホルヘ・ルイス・ボルヘス

伝奇集 (岩波文庫)

伝奇集 (岩波文庫)

『八岐の園』と『工匠集』という二つの短編集を合わせた計17編からなる短編集。架空の国の歴史や文化が現実を侵食していく『トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス』。世界のあらゆる事象を、無限に続く六角形の部屋から成る図書館の蔵書に収めた『バベルの図書館』。登場人物全員が壮大な暗殺劇の役者であった『裏切り者と英雄のテーマ』など。

間違いなく本記事の中で最も難易度が高く、読解に時間がかかる作品。哲学・文学・言語学・歴史学に通じた作者の底なしの知識の海から形成される、鏡合わせ・円環・永遠の分岐から成る世界。まるで幾何学模様を描いているかのような物語の牢獄に囚われて一生抜けられない気がしてしまう、そんな本です。個人的に本をモチーフにした話が大好物なので、『トレーンー』、『「ドン・キホーテ」の著者、ピエール・メナール』や『バベルの塔』が大好き。円城塔やケン・リュウ、マーク・Z・ダニエレブスキーなど売れっ子現代作家にも多大な影響を与え方事が分かる、非常に有意義な読書でした。また何度も、何度も、繰り返し読みたくなる事確実。

第7位「野生の探偵たち」ロベルト・ボラーニョ

野生の探偵たち〈上〉 (エクス・リブリス)

野生の探偵たち〈上〉 (エクス・リブリス)

あー、ああ、あああ…。ついに読み終わってしまった…、と読了時はただひたすら虚脱感に襲われ、魂と言葉が旅に出てしまい、その後も暫く戻ってこなかった超大作。

3部に分かれた本作の第1部と3部は、「はらわたリアリスト」と名乗る若手前衛詩人の二人に憧れる青年の手記の体を取る。若手の二人は消息不明の女流詩人の後を追い、メキシコを起点に世界中を周る事に。第2部ではそんな神出鬼没な彼らの様子を、謎の聞き手が50人以上もの多彩な人々にインタビューを重ね、浮き彫りにする。題名の「探偵」とは、女流詩家を追う二人か、その二人の軌跡を追う謎の聞き手か?舞台も北米からヨーロッパ、中近東からアフリカへと跳ねに跳ね、二人の人物像も語り手によって目紛しく変わり、ついていくのがやっと。ただ、読んでいる中で鮮やかに蘇ったのは、自分の青年時代。あの、地平線までだだっ広く拓けた予想のつかない未来に焦り焦がれた日々を、そして数々の人間が自分の世界に立ち現れては、時には強烈な残像を、時には微かな残り香を、残し去っていった日々を懐かしまずにはいられない。

第3章に入ってからは、この物語が終わってしまうのが受け入れられなくて、何度も、何度も本を置いてしまった。そして読み終わった今は胸を掻き毟りたくなるような焦燥感でいっぱい。あまりの厚みにたじろぐ方もいらっしゃるかもしれませんが、誰しもが持つ万華鏡のような日々を思い出したい方はどうぞ。

第6位「ルバイヤート」オマル・ハイヤーム

ルバイヤート (岩波文庫 赤 783-1)

ルバイヤート (岩波文庫 赤 783-1)

さいっこう…。すばらしい…。と語彙が限りなく少なくなる至上の一冊。諸行無常の世を語ったペルシャの四行詩、何が良いって落ち込んだ時に読むと全てがどうでも良くなって心が軽くなること。要するに人間なんて皆すぐに死んじまうんだからとにかく酒だ酒〜!という酒乱にとっても最高な内容なんだけど、小川亮作訳がいちいち格好良い。語るより読んでもらった方が早いので、特に好きな二節を紹介します:

地の表にある一塊の土だっても、
かつては輝く日の面(おも)、星の額であったろう。
袖の上の埃を払うにも静かにしよう、
それとても花の乙女の変え姿よ。

たのしくすごせ、ただひとときの命を。
一片の土塊(つちくれ)もケイコバードやジャムだよ。
世の現象も、人の命も、けっきょく
つかのまの夢よ、錯覚よ、幻よ!

酩酊しながら読むと最高の悦楽に浸れます。青空文庫でも読めるので是非!

第5位「ジョヴァンニの部屋」ジェームズ・ボールドウィン

ジョヴァンニの部屋 (白水Uブックス (57))

ジョヴァンニの部屋 (白水Uブックス (57))

アメリカからパリに遊学中の主人公。父親に叱責されつつも未だ目的もなく放浪し、付き合っていた女性はスペインへと長旅に出かけ、貯金も底をつく。そんな彼は金の無心をしに訪ねた知人男性と共に、冷やかし気分でゲイバーを訪れ、バーテンダーをしていた青年ジョヴァンニと出会う。嘘のように一瞬で意気投合し、気付けばジョヴァンニの部屋で体を重ねていた二人。しかし、主人公への愛を明け透けに訴えるジョヴァンニとは裏腹に、長年自分の本心をひた隠しにし続けていた主人公には、二人の関係は決して認められるものではなく…。

黒人かつゲイのダブルマイノリティである筆者が描く、出会うべきではなかった二人の男の話。名作、名作、名作。ず〜っと手元に置いておきたいと思う、数少ない作品の内の一つです。なんでここまで「良い」と思うのか考えてみた所、同性愛を扱っているにものの内容は限りなく普遍的で、自分が未だ見つからない人、もしくは一度は自分を見失った人のための本だからかな、と思うに至りました。本作の主人公は自分を捉えるために、定めるために、常に他人を冷たく観察しています。そして彼が軽蔑する他者達は、結局は自分を映した鏡だと知ってしまう。しかし外界と内界の探求の末に見つけた自分は、どうしても受け入れられない姿をしていてー。知りたくはなかった自分を知った時、私はどうするだろう。本作の主人公のように逃げるのか、向き合うのか?自分が思っていた自分ではなく、逆境に弱いと思い知ったばかりの自分には、切り付けられるような思いのする作品でした。一言でまとめると、悲劇です。ただそれでも、自分に迷える人にそっ…と寄り添うような作品だと思います。気になる方は是非ご一読を。

第4位「オーランドー」ヴァージニア・ウルフ

オーランドー (ちくま文庫)

オーランドー (ちくま文庫)

後半になるにつれどんどん難解になっていったけど、なんとも楽しい作品だった。目覚めれば女に変身していた貴族の男。不死身とも思える身体を手に入れた彼?彼女?は、時代の奔流に身を任せながら、生の意味を問う。情景描写が巧み!冗長と思う人もいるかもしれないけど、地味な部分、愉快な部分、しっかりメリハリが付けられていて、瞬時に光景が眼前に広がる様は、読んでいてドーパミンがドパドパ放出される程の快感だった。凍った河が一気に溶解するシーンとか鳥肌が立ったし。こんなに文章全部ハイライトしたいと思ったの初めて。何よりオーランドーが性転換するまで、比喩表現がことごとく線対称なのも意匠が凝らされてて好き〜。二項対立的な言い回しがあまりにも多いので意識的にやってるとしか思えない。男と女、陰と陽、生と死、結局は一つの個体に内包されてるものだ、との示唆だろう。積読にしていたウルフの『灯台へ』を含め、他の作品も急ぎ読みたい。

第3位「移動祝祭日」アーネスト・ヘミングウェイ

移動祝祭日 (新潮文庫)

移動祝祭日 (新潮文庫)

すっげ~良かった。まだ駆け出しの小説家だった頃、貧しくも幸せだったパリでの日々。下世話な言い方をすればヘミングウェイのツイッター。彼の豪胆で奔放なイメージからは想像がつかないような、執筆に対する真摯な姿勢や読書遍歴を知ることができ、まるで読書アカウントのよう。ただやっぱり酒は飲み過ぎ。ガートルード・スタインやスコット・フィッツジェラルドなどの著名人や、Shakespeare & Co.という大好きなパリの本屋さんも登場し、無性に嬉しくなってしまった。ヘミングウェイは正直『日はまた昇る』や『老人と海』がどうしてもつまらなく感じて好きではなかったのだけど、本作は他の方の書評を読んで興味が湧き手に取った。なんだろう、登場人物が皆生き生きしている、何気ない風景が輝いている。彼のような人生に憧れるなぁ。

第2位「チェルノブイリの祈り」スベトラーナ・アレクシエービッチ

チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

目の前には、善意で差し出された放射能に侵されたサンドイッチ。貴方は食べるか食べないか、究極の選択を迫られる。しかし正解は決してない。戦争よりも突然に訪れた原子力発電所事故という危機を前に、誰しもが永遠に得られぬ答えを求め、哲学者へと変貌するのだった。人はなぜ記憶する、なぜ忘れない?死とは?生とは?いずれも同じこと?魂とは何か?人生に意味はあるのだろうか?国とは、民とは、正義とは?悲痛な問いが長く静かに谺する。7歳の少年が死を受け入れる世界。舞い散る木の葉やそよ風に恐れをなす世界。自分の余生ではなく、何千何万年後を憂う世界。現実とは到底思えないそんな世界を、当時の緊急隊員が、農家が、医師が、「チェルノブイリの人々」として語り、そして問う。経た年月を思えば今や亡くなられた方も多いのではないか。いわゆる死者の声を、ある人の言葉を借りれば「塵の声」を、丁寧に取材し、余すことなく残した神品。本当に読んで良かった。取っ付きにくく思われるかもしれないノンフィクションルポですが、紹介せずにはいられない、間違いのない文学的傑作です。

第1位「」アンナ・カヴァン

氷 (ちくま文庫)

氷 (ちくま文庫)

要約すれば氷に覆われ終末を迎えつつある世界で、男が少女を追い続ける話。極めてシンプルなストーリーにもかかわらず、最初の数ページ読んだ時点で、「あ…これ絶対好きなヤツ…」と直感し、勿体なさ過ぎて放置、また冒頭から読んで前より読み進めるけど完読したくなくて放置、を繰り返し、少しずつ大事に読んだ本。人に薦めるとかしない、他人が読もうが読むまいがどうでもいい。とにかく私はこれが好き、好き、好き。氷の破片みたいに世界をバラバラに打ち砕いて、それをまた再結晶させたような支離滅裂なストーリーがまさしく夢のよう。ついさっきまであり得ないことが起きたのに、それをすんなり受け入れている。村上春樹の『1Q84』も同じカテゴリーに入れられることが多い、謂わゆるスリップストリームというジャンルのようです。は〜この作品、終末物なのも最高だし、信頼できない語り手なのも至高。主人公の彼の凍った青水晶のような眼と、彼女の絹糸の髪の描写はあまりにも美し過ぎて何度も繰り返し読んでしまった。絶望も希望も予感させるエンディングも文句なし。自分にとって大切な作品になるのはすぐに分かったので、原語の愛蔵版まで購入してしまいました。これは絶対に繰り返し読んでいく作品だと思います。

ベスト15一覧表

最後に

正直順位付けはしたくないくらい、各作品の好き!度は拮抗していたのですが、便宜上並べていた方が分かりやすいので、このような形で今回は紹介しました。こうやって振り返ってみると全作海外文学作品でちょっとびっくり…!まだまだ読みたい本が沢山あるので、来年も貪り読んで、また皆さんにご紹介したいと思います。オススメも募集中!それでは2019年もどうぞ宜しくお願い致します〜

ちなみに2017年の個人的トップ作品はこちらです。