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色々な本の読み方の提案をしているブログです。

ロシア文学中級編!もう一歩踏み込みたい方にオススメの10冊

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以前の「おすすめロシア文学10選とゆかりの地巡り」という記事で、ロシアの定番作品をご紹介してからも引き続きロシア文学にハマり続け、色々と読み漁っている日々。このままだと愛が迸り過ぎて頭がおかしくなってしまいそうなので、またまたご紹介します!

今回「中級編」と冠しているのは、トルストイもドフトエフスキーもあらかた読み終えた方を意識しながら書いたためと、ロシアでは有名ながらも日本では絶版になってしまっており、手に入れにくい作品が一部あるためです。また、おいおいマヤコフスキーは?ブーニン、ショーロホフ、ソコロフは?といった突っ込みもいただきそうですが、またの機会に紹介するのでお手柔らかにお願いしますー。

前置きはこれくらいにして、ぜひロシア文学という広い広い大地に足を踏み入れてくださいませ、いってらっしゃい!

オブローモフ」イワン・ゴンチャロフ(1859年)

オブローモフ〈上〉 (岩波文庫)

オブローモフ〈上〉 (岩波文庫)

大好き度:★★★★☆

あらすじと感想:オネーギン』『現代の英雄』『父と子』など、19世紀ロシアの代表的文学作品にしばしば登場する、その知や能力の発揮場所がなく、鬱屈とした日々を送る「余計者」達。本作でも主人公である貴族オブローモフはそんな余計者の一人として、せっかくの親から受け継いだ財を未練なく手放し、彼に恋心を寄せるオリガを多少の葛藤の末に冷たくあしらい、ただひたすら怠惰な生活に身を預ける。親友シュトルツの尽力も虚しく、最後にオブローモフは…。

事前情報通り、主人公のオブローモフが全くベッドから出る気配なく100ページ以上経った時は笑いを堪え切れなかったけど、段々と鬱病患者を見ているようで辛くなり、後半はなんでか泣きそうになってしまった。同一人物の理想と現実を表しているかのような、鏡合わせのようなオブローモフとシュトルツも勿論良いけど、その二人が表す「安寧」と「野心」の間で葛藤するオリガに一番感情移入できる。結局人生の意味に正解はあるのだろうか、考え込んでしまう。

魅せられた旅人」ニコライ・レスコーフ(1873年)

魅せられた旅人 (岩波文庫)

魅せられた旅人 (岩波文庫)

大好き度:★★★☆☆

あらすじと感想:場所は極寒のラドガ湖。船上で乗り合わせた修道士が、男達に語る半生。奉公先から遁走し盗賊の仲間入りをしたかと思いきや、韃靼人に囚われ十年もの間軟禁の身になり。やっとの事で逃げ出したのも束の間、ジプシーの女性に魅了され。神の道に戻るまでの悲喜交々を描いた冒険譚。

同作家の『ムツェンスク郡のマクベス夫人』読んでも思ったけど男女問わず、いずれの登場人物も豪胆というか、思い切りが良くて好きだなぁ。過激!あと舞台も中央アジアのステップから修道院からシベリアの湖上まで目まぐるしく変わって、一緒に主人公と広大な大地を放浪する感覚が味わえて良い。ロシアの大きさを肌で感じたい人、また、紀行文が好きな人は特に本作を気に入ると思います。

ガルシン短編集 赤い花」(1877-1887年)

ガルシン短編集 赤い花

ガルシン短編集 赤い花

大好き度:★★★★☆

あらすじと感想:ガルシィィィン!!!どんな業を背負わされたらこんな話を書けるんだ!最初から最後まで絶望しかねーじゃねーか!と叫びたくなる短編集。収録されている短編は、「赤い花」「四日間」「アッタレーア・プリンケプス」「めぐりあい」「信号」「ナジェジュダ・ニコラーエヴナ」の計6編。

ロシアにおける精神病院小説の先駆けと言える表題作「赤い花」も好きだし、「四日間」の戦場を追体験しているかと思う程のリアリティには脱帽するし(横たわる瀕死の主人公が眼前に捉える巨大な草や虫、そして土の香り。まさに同じ状況を生きながらえた筆者の実体験をなぞる事ができる)、「アッターレア・プリンケプス」の短い寓話の結末も痛切で印象深いし、「信号」で貫き通される正義には納得感しかないし、何よりロシア文学っぽさ満載の「ナジェジュダ・ニコラーエヴナ」で締められている点が最高の高。

この作者はあまりにも純真で、正し過ぎたんだろうなぁ。彼の求める世界と現実にはあまりにも乖離があり過ぎる。それを分かっていながら、せめて自分が筆を持つ小説世界では夢を見れば良かったのに、そこでも結局リアルを追求したのは何故だったのだろう。夢に逃げれば心を壊す事もなかっただろうにな。「信号」だけ他と少し毛色が違うけど、そこでも結局最後まで悪の根は絶やされないままだしな…。もっと楽な生き方もあったと思うんだ。痛ましい。

プラトーノフ作品集」アンドレイ・プラトーノフ(1899-1951年)

プラトーノフ作品集 (岩波文庫)

プラトーノフ作品集 (岩波文庫)

大好き度:★★★★★

あらすじと感想:代表作の「ジャン」を始め、「粘土砂漠」「三男」「フロー」「帰還」から成る中短編集。好!き!だ!「ジャン」と「粘土砂漠」は、共に中央アジアの寂寞とした世界が舞台。空腹と乾きは決して去る事なく、「選ぶ」という自由も贅沢もなく、死と生の綱渡りを続ける登場人物達の過酷な日々が、シリア難民支援に携わっていた当時の自分が毎日相対していたケースとあまりにも似ていて、感極まって泣いてしまった。人は心を空にしても、何かを注いでも、何かを零しても、生きられるだけ生きる、そんな強烈なメッセージを孕んだ上記二作以外にも、大好きなヒューマニズム溢れる作品ばかりだった。特に「粘土砂漠」と「帰還」が好き。どの作品も、登場する子供達だけが異様で、嫌に大人びているのは、自由や創造性を奪い去った社会主義を暗に批判しているのだろうか。考察の余地が沢山ある作品だけど、額面通りに受け取っても良い。繰り返し読む度に新しい発見がある、オススメの一冊です。

どん底」マクシム・ゴーリキー(1902年)

どん底 (岩波文庫)

どん底 (岩波文庫)

大好き度:★★★★☆

あらすじと感想:モスクワの巨大公園にも名前が冠されている作家ゴーリキーの戯曲。木賃宿で蠢く社会の最底辺の人間達。妻に手を上げる錠前屋のクレーシチ。暴力と貧困の末に死の淵に立つその妻アンナ。男爵に売上を殆ど巻き上げられる娘ナースチャ、アルコールに溺れる役者、盗みで食い扶持を稼ぐワーシカ。殴り騙し貪り合う彼らは、前途に光明を見出せるのか。優しい嘘をつく巡礼者ルカも、宿泊者達の間で騒動が起きるや否や雲隠れしてしまいー。

舞台は殆ど洞穴の様な宿の中。この湿った暗い空間で、驚く程の数のキャラが感情を剥き出しにしぶつけ合う様子が、これぞ戯曲!という感じでもう最高。個人的に大仰なアクションよりもヒューマンドラマが大好きなので、これはピッタリな作品だった。あまり大きな声では言えないけどエンディングも好き。10歳で孤児になり、10代で自殺未遂、その後5年間ロシア大陸を放浪したという辛酸を舐めきった作者こそが描けたラストじゃないか。でも人間結局こうだよね。境遇によって人は悪魔にでも天使にでもなれるものだ。

われら」エヴゲーニイ・ザミャーチン(1921年)

われら (集英社文庫)

われら (集英社文庫)

大好き度:★★★☆☆

あらすじと感想:「単一国家」の統治から1000年、人々は透明な家々に住み、政府に生活の細部まで監視されながら、歯車の一つとして人類のために尽くす至上の喜びを手に入れていた。ついには宇宙にまでその触手を伸ばそうとしていた国家のため、巨大な宇宙船の建設に当たっていたD-503は、その栄えある作業の記録のために日記を付け始める。最初は政府の賛美に溢れたそれも、国家転覆を企むI-330との出会いにより疑念に塗れていきー。

すべてはここから始まった、と言っても過言ではない、ディストピア文学の祖とも呼ばれる作品。最初は奇妙な設定も相まり、少し読み辛く感じるかもしれないが、読めば読む程面白くないので諦めないで欲しい。どんなに政府の全体主義的統治が進んでも、本作で描写されている様な性行為の管理や透明な家を使っての監視までは起きないだろうが、「いや待てよ、私達の政府は○○はしてるし××もしているよな…」と客観視する機会を与えてくれるので面白い。改めて冷静に自分の国を評価するきっかけが得られる作品。

イワン・デニーソヴィチの一日」アレクサンドル・ソルジェニーツィン(1962年)

イワン・デニーソヴィチの一日 (新潮文庫)

イワン・デニーソヴィチの一日 (新潮文庫)

大好き度:★★★★☆

あらすじと感想:題名通り、スターリン政権時代の強制収容所での囚人イワンの一日を描いた作品。囚人達の殆どは謂れもない罪で投獄され、実質無期の懲役刑を言い渡され、極寒の地シベリアで重労働を強いられる。そんな逆境の中でも、自分の手に収まるだけの小さな幸せを見つけながら、日々を生き抜くイワン。自身もスターリンを批判した疑いで収容所に投獄され、その後の流刑も合わせて十年の孤独を経験した作者の実体験を元にしている。

好・き!ディストピア物もそうなんだけど、極限下、もしくは異常な環境下で剥き出しになる人間性を描いた作品がとにかく好き。ただ本作は、そんな中でも人間が持つ柔軟性としなやかさが強調されていて、読みながらも希望が持てる作品だった。食物連鎖の下層である男達が連帯する様子は、精神病院が舞台のキージーの『カッコーの巣の上で』や軍人養成学校の日々を描いたリョサの『都会と犬ども』を思い出す。

また、基本主人公に悪い事が起きる瞬間がいつも嫌で、緊張間が高まると本を置いてしまう事もあるのだけど、本作は良い意味で裏切られたのも良かった。全体を通してネガティブよりもポジティブに焦点が当てられており、非常にマイルド。同著者が執筆した文学ルポ『収容所群島』はよりエグいらしいので、こちらも読んでみたい。

宇宙飛行士オモン・ラー」ヴィクトル・ペレーヴィン(1992年)

宇宙飛行士オモン・ラー (群像社ライブラリー)

宇宙飛行士オモン・ラー (群像社ライブラリー)

大好き度:★★★★★

あらすじと感想:アメリカとの冷戦真っ只中のソ連。幼少期から宇宙飛行を夢見ていた少年は、政府の示威活動の一環として、ついに月面探査の任を得る。しかし、彼を待ち受けていたのはグロテスクなまでの大人達の欺瞞だった。次々と同士の少年達が斃れる中、果たして彼の運命はー。

終始ウーウー唸りながら読むも、頁を繰る手が止められなかった!主人公に課されたミッションはあくまで月面の「自動」探査。しかし実態は…次々と暴かれるソ連の嘘とそれを支える生贄達。核実験が実は何万人もの囚人を空から同じタイミングで落としたものだった…を始めとする荒唐無稽な「事実」を知れば、もう、泣きながら笑うしかない。しかし、この作品をフィクションと一笑に付す事は決して出来ない。現に何度も同じ様な「馬鹿馬鹿しくも英雄的な行動」は繰り返し求められたではないか。この作品内でも主人公の教科書に載るのは神風特攻隊の「勇姿」。ソ連と現代日本の精神性は相違よりも共通点の方が多いのではないか。是非沢山の人に読んで欲しい作品。

あと、個人的には「宇宙」を題材にした作品が無条件に好きなのですが、それに「全体主義的ディストピア」が加われば、垂涎せざるを得ない作品に一瞬で昇華します。この作品はまさにそれなので、同じ趣味の方がいれば是非是非読んでみてください。

青い脂」ウラジミール・ソローキン(1999年)

青い脂 (河出文庫)

青い脂 (河出文庫)

大好き度:★★★★☆

あらすじと感想:ペレーヴィンと同様、現代ロシア文学のスター、いや、スターと言うよりはモンスターと評される若手作者の長編小説。こーれーはヤバイです。ヤバ過ぎて、何度も挫折しかけてやっとの思いで読み終えました。人生で一番読むのに苦しんだ作品と言っても過言ではないかもしれない。前衛アート?奇怪なスラング、文豪のクローン、エログロスカトロ何でもござれ、極め付けはスターリンとフルシチョフの濃厚な濡場。読むのに並々ならぬ体力が必要です。

你好、私の優しい坊や。やっとお前がくれた書を読み終えた。正直に言おう。一文字目から腐っている。これを書いたのはどこの醜悪な気狂い野郎だ?おかげで私はMバランスを7ポイント失った。マイナス=ポジット。後はただ乾いたカッテージチーズになるしかない。なんてことだ。リプス ・你媽的 ・大便 !

引用という訳ではないのですが、上記のような文体で第1章が開始(『時計じかけのオレンジ』のスラングはまだ解読の余地があったけど、それ以上の難しさ)。近未来、雪に埋もれたシベリアの遺伝子研究所で働く多国籍チーム。彼らはトルストイ4号やナボコフ7号を始めとしたクローンを創り上げ、各個体が執筆活動の後に蓄積する謎の物質「青脂」を集めていた。しかしそれも強奪された後に様々な者の手に渡り、最終的にはタイムマシンで1954年のスターリンに送られる。それを手にした最高指導者は…。

好きか嫌いか問われれば大っ嫌いだけど、まるで卓に置かれた礫死体のように、どうしても視線を外す事ができない作品。クローン達が書き上げたとされる作品群は各文豪の文体模写とソローキンの個性の合わせ技が炸裂。また、その他にも短編として独立した挿話が数多くあり、それぞれスタイルも違い、美術館の展覧会に足を踏み入れたようで大変面白かったです。「水上人文字」と「青い錠剤」が特に好き。鬼才ソローキンが放つ猟奇の世界に、勇気を振り絞って身を投じてみては。

五月の雪」クセニヤ・メルニク(2014年)

五月の雪 (新潮クレスト・ブックス)

五月の雪 (新潮クレスト・ブックス)

大好き度:★★☆☆☆

あらすじと感想:かつて多くの強制収容所が置かれたシベリアの町マガダン。その役割を終えた後も人々は残り住み、家族という絆を連綿と紡いだ。時に一員が去り、時に死に、時に入れ替わりが生じてもー。15歳でアメリカに移住した、ロシア系作家による、戦後からソ連崩壊前後までを描いたゆるい連作短編集。

一編一編は正直に言うと、かなり苦手だった。日常に不満を感じているのに、少しでも夢想しようものなら現実に引き摺り戻される登場人物が居た堪れない、と思いきや、彼ら自身も(全員ではないが)結局デモデモダッテで何も行動を起こそうとしない。 何も起きないロシアの町の喜怒哀楽を描いている、と言えば聞こえはいいけど、とにかくそれが苦しくて仕方がなかった。せめて一度は選択して欲しかった。足掻いて欲しかった。結局作者が皿に乗せた「これぞロシア」を口にできる訳でもなく、ボーッと傍観させられているような。各キャラの心の中の結晶が欠けたり、組み替えられたり、細かな変化はしているのは分かったけれども、全く感情移入ができなかった。

ただ、最後に各編が緩く繋がっている事に気付くと、印象はガラリと変わる。描かれているのは個人の話のように思えて、壮大な一家の歴史だった。点と点が繋がり、曖昧ながらも美しい像を描く。その中でもがく祖母が、母が、子が、愛しく思える、そんな不思議な一冊。

「イタリアの恋愛、バナナの行列」ーまだ西欧の物が手に入り辛かった時代。イタリアのサッカー選手に口説かれた私は、恋と家族を天秤にかけー。「皮下の骨折」ー順風満帆なアメリカでの生活を得た私と、全く同じ町で生まれ育ちながらも、不遇に見舞われてしまう友人と。「魔女」ー偏頭痛に悩まされる少女は魔女の下へと向かう。「イチゴ色の口紅」ー早く結婚してイチゴ色の口紅を気兼ねなくつけたかった私はー。「絶対つかまらない復讐団」ー少年はマガダンの復讐団結成に思いを馳せる。気が散ってしまう、こんな簡単な行進曲も弾けないなんて。「ルンバ」数十年に一度の逸材を見つけたダンスコーチは少女にだけ甘い。終いにはー。「夏の医学」ーどうしても医者になりたかった少女は仮病を使い祖母の病院に入院するもー。「クルチナ」ーアメリカ人の男の下に嫁いだ娘が気がかりで、ついには渡米したおばあちゃん。「上階の住人」ーマガダンが誇るかつての大歌手の人生。

まとめ

いかがでしたでしょうか?ロシアの文学と一口に言っても、そもそも歴史も長いし土地も広大だし、たった10作を紹介するだけでは全容が全くつかめませんね。そんな中でも、ソ連体制時に書かれた、もしくはその時期を舞台にした作品が今回とても多いのは、完全に自分の趣味です笑 まだまだ沢山素晴らしいロシア文学作品があるので、また折を見て紹介させていただきます!