ゴミ本なんてない

色々な本の読み方の提案をしているブログです。

2019年読んで良かった本ベスト10

f:id:gomibon:20200304215258j:plain

もう2020年も3月になってしまいましたが、2019年の個人的ベスト本を10冊紹介します!その内の半数が実は「世界文学を100ヶ国分読んでみた」の記事で既に紹介済みのもののため、内容が一部被っているのですが、そこはご愛嬌。この特集を組んでみようと思わなければ出会えなかった本に沢山出会えた年でした。

f:id:gomibon:20200304001519p:plain

読了した冊数は88冊。4月に転職してバタバタしていたのと、大学時代に読んで好きだった作品の再読などを重点的にしたので、2019年の新規読了数はそこまで多くなったです。

早速その中でも特に好きだった作品を紹介。順位は相変わらず「敢えてつけるなら」なもので、特に深い意味はないです。当たり前に全部好き。

第10位「名もなき人たちのテーブル」マイケル・オンダーチェ

名もなき人たちのテーブル

名もなき人たちのテーブル

大大大好き!な作家の小説。まだまだ現役ながら、彼の作品を全部読み切ってしまわないように、一年に一冊のペースコントールを心掛けながら大事に大事に読んでいる程。そしてようやく手にした三冊目(一冊目は2017年のベストだった『イギリス人の患者』、二冊目は2018年に読んだ『アニルの亡霊』)、客船での旅の話とあっては旅烏の心が疼いてどうにも抑えきれず、すぐに読んでしまいました。

ロンドンの母に会いに、一人コロンボからの客船に乗船した11歳の主人公。そこで友人となった少年らと共に船内中を駆け回りながら、旅芸人の一座、病床に臥した富豪、植物学者、大罪人、いとこの女の子など、多彩な面々に出会い、彼らの光と影を垣間見る。人生の転機となる三週間になるとも知らずにー。

生涯出会う事はないであろう行きずりの人々とのひとときを共にする「旅」という特殊な環境下。だからか普段は本心を隠す仮面を被り、豪胆だったり寡黙だったりする大人達が、主人公と友人らにだけは子供だからと甘くみて素顔を晒してしまう、そんな瞬間がたまらなく愛しい。そして、隠し事を暴く側であった子供達もたったの数日間で成長し、互いに秘密を抱えるようになり…巧いなぁ!そして面白い、切ない、好き、やっぱりオンダーチェは最高だ。

関連作品:

第9位「黙約」ドナ・タート

黙約(上) (新潮文庫)

黙約(上) (新潮文庫)

敢えてキャッチコピーを添えるなら、「大人向けのハリーポッター」。カリフォルニアの凡庸な生活を逃れるようにアメリカ東部の古式ゆかしい名門大学に編入した主人公が、キャンパスで出会った古代ギリシアを学ぶ五人の仲間と教授に導かれ、倫理と美の追求に耽る。しかしその行為がエスカレートするあまりに、彼らはいつの間にか道理から外れ、正と美は血に塗れ…。主人公が完全にマグルの世界から魔法使いの世界に飛び込んだハリー。ただ、彼は最後の最後まで徹底的に傍観者であって、そこがハリーとは違うし、好きな所以。加害者から被害者に、被害者から加害者に転じる青年達もいずれも愛嬌があって好き。何よりモロー教授のラスボス感と、彼の最後の決断がとても人間臭くて良い。

いや〜面白かった、好きだ、心の一冊だ、と読了後にしみじみと実感した作品。新潮文庫版では1000頁近くあるも、あっという間に読み終わっていた。元々同作家の長編『ゴールドフィンチ』(2019年にハリウッド映画化されるも大失敗に終わる)が結構好きで、泣きながら、笑いながら、咆哮を上げながら狂気に飛び込んでいくような登場人物達が頭からこびりついて離れなかった。本作も同様に、罪を犯した青年達が自滅の道を突き進む姿が何とも痛ましい。彼らの自傷行為の様な暴挙に感化され、作中で多用されているドラッグやアルコールを摂取したかのように悪酔いどころかバッドトリップしてしまい、読了後は実際に体調が悪くなってしまった。なのに?だから?彼らの爆竹同然の一瞬の生命の輝きに目が眩み、また読みたい、と手を伸ばしてしまう。この悪魔のような魅力は筆舌に尽くしがたい。葬式のシーンですら笑かしにくるのも憎いんだよなぁ。『ゴールドフィンチ』を上回るどストライク作品だった。タートは寡作な作家で、10年に1回のペースで小説を世に出しているんだけど、これを読んで、一生をかけて追いたい作家だと確信した。

関連作品:

第8位「バラバ」ペール・ラーゲルクヴィスト

バラバ (岩波文庫)

バラバ (岩波文庫)

こちらは世界文学の記事でスウェーデンの代表として選んだ作家の中編小説。過越の日にイエス処刑の身代わりに釈放され、ゴルゴタの丘での磔刑を免れた悪漢バラバ。そんな彼の信仰への迷いと葛藤を描いた傑作、傑作!神に身を捧げ、愛餐で絆を深める信者の恍惚とした表情と、無慈悲なまでの徹底的な神の不在の間で、彼の心は揺れ動く。二百ページにも満たない作品ながらも、様々な解釈が可能、それ故に何度も読み返してしまうのは自分だけではないはず。気に入った方は同作家の『巫女』も併せて読んでみては。本作と同様に神の姿、信仰の在り方を問うています。また、同じく「信仰」をテーマにした遠藤周作の『沈黙』や、同時期の様子をマリアの視点から描いた『マリアが語り遺したこと』(本作のマリア像と一致している気がします)やピラトの視点から描いた『巨匠とマルガリータ』も面白いので興味があれば是非お手に取ってみてください。

関連作品:

巫女 (岩波文庫)

巫女 (岩波文庫)

第7位「G・Hの受難」クラリッセ・リスペクトール

こちらも世界文学の記事でブラジルの代表として選んだ作家の著書。「ゴキブリ文学」として一部の界隈では有名…らしい…。

「あなたは誰ですか?」与えられた名前、重ねた年月、生まれ落ちた身体の型の紹介の後に続くものは何だろう。住んでいる場所と日々行なっている行動を挙げるだろうか。◯◯と△△の子、友、仲間と続柄を挙げるだろうか。結局は自分を取り囲む「境遇」と「状態」の積み重ね。そういったものを彫刻家のように全て削り取った後に残る「自分」という像は何だろう。そしてその「自分」と「神」との関係性は?収集し分類する事で解るのではなく、失う事で初めて見えてくるもの。そういった言葉にできない物事を、主人公の意識の流れを介して言葉に置き換える試みである「G・Hの受難」、数時間をかけて一気に二回読んでしまう程に衝撃的だった…。真っ二つに切断されたゴキブリの姿から世界の真実に辿り着き、その境地として切断面から滲み出た汁を口に含む主人公…こうやって文にすると狂気でしかないし、作者の意図を半分も汲めたとは思えないが、彼女が真理の扉を開き、向こう側に至るまでの酷く心細い旅路に同伴できた事をありがたく思う。

第6位「ブリキの太鼓」ギュンター・グラス

こちらは世界文学の記事でドイツ代表として選んだ作家の長編小説。

第一次世界大戦の傷跡も未だ生々しく、次の大戦の足音が忍び寄る…そんな時代に生まれ落ちた少年オスカルは、三歳を最後に成長する事を止めた。見た目は子供、頭脳は大人、そんな彼が戦火に呑まれたダンツィヒをブリキの太鼓を片手に行進する。

ヤバイ、凄い、ヤバイ、本当にヤバ凄い作品だった。実は第一章のジャガイモ畑のシーンがあまりにつまらないわ訳分かんないわで挫折すること実に10回以上、50ページ程読んでは諦めるを何度も繰り返した本だったのだけど、いつの間にか面白過ぎて逆に置くタイミングを失する程に。人間の深淵が知りたくてホロコースト文学は様々な視点からの物を読んできたつもりだけど、蓋を開けてみればナチスやユダヤ人を主眼に置いた作品が多かった。しかしこの作品は、それ以外の人々、市井の人間の微妙な心理の変化を的確に捉え、彼らがいかに戦争に加担したかを描いている。当時のドイツ社会を具現化しているかのよう、とにかく空気感が凄い。今まで何の軋轢もなく共に暮らしていた人々を徐々に無視し、迫害し、ついには殺すようになるまでが極めて自然に描かれていて、ゾッとする。これも自分達がしでかした事を絶対に忘れさせないぞ、というかつてナチ武装親衛隊に所属していた作者の執念が成せる技なのかも。

魚を食べ過ぎて死ぬ肉親に船首像と性交する男など、嘘だろ、と思うような奇行に次ぐ蛮行に次ぐ淫行、何が何だか分からない!ただ、そんなエピソードに紛れて、水晶の夜やソ連軍による侵攻など、それこそグロテスクな現実が容赦無く挿し挟まれる。オスカルが愛読していたゲーテの教養小説とラスプーチンの性生活を描いた猥雑な小説をちょうど混ぜたような奇書の体を成しているのだが、それこそ我々の20世紀の歴史こそがこの小説以上に「野蛮で、神秘的で、退屈」だったのかもしれない。忘れたくても忘れようにないエピソードばかりの強烈な長編だった。

第5位「コルテスの海」ジョン・スタインベック

1940年春、大戦の不穏な空気を尻目に、海洋生物の採集と研究という名目でカルフォルニア湾へと出発したウェスタン・フライヤー号。種々の貝に蟹にマンタにエイ、まさに生命渦巻く海域の最中、男達は陽光を浴びながら命の記録に勤しむのだった。

あ゛ぁ〜好きじゃ〜なんだこれ〜とヘロヘロになるノンフィクション作品。元々スタインベックは『ハツカネズミと人間』から読み始めて、『キャナリー・ロウ―缶詰横町』が個人的殿堂入りを果たすくらい好きになった作家。本作はそんな彼に多大な影響を与えたと言われる人物エド・リケッツとの、「航海もとい冒険」の情景や思索を纏めた日誌とあれば、嫌いなれる訳がない。リケッツの死に際して執筆した追悼文「わが友、エド・リケッツ」が冒頭に収録されているのだけど、傑作!波の様に捉えどころがなくて、かつ包容力に富んだ親友への愛が溢れんばかりで、涙なしには読めない。日誌自体も、まるで自分が船員の一人になったかのように楽しめた。スタインベックの思想や倫理観も興味深い。生物の収集中は視野が狭窄してただその一匹だけを見つめる事になる、と書いてはいたけど、結局一個体が群をなし、それらが岩礁に集まって動物相を描き、最終的には地球が一個の生命体として息吹く様が手に取るように感じられて、あまりの壮大さにクラっときた。スタインベックの哲学に触れられる貴重な一冊。

「そのころのわれわれは貧乏だなんて少しも思っていなかった。ただ金がなかっただけだ」(「わが友 エド・リケッツ」)

関連作品:

エド・リケッツをモデルにした「ドク」が主要キャラとして登場。大好き。

第4位「カイロ三部作」ナギーフ・マフフーズ

張り出し窓の街 (カイロ三部作 1)

張り出し窓の街 (カイロ三部作 1)

こちらは世界文学の記事でエジプト代表に選んだ長編ロマン。

第一次世界大戦中のカイロ、宮殿通りに軒を連ねる張出し窓のついた家。一家の主であり絶対的権力者である商人アフマドと、従順な妻アミーナ、優秀な三人の息子と二人の娘。そんな彼らの規則正しく幸せに満ちた日常が、活発化するエジプトの独立運動に呑まれ変貌していく様を丁寧に描いた大河小説。

本作の影の主人公であるアミーナがパンを捏ねる音から朝が始まり、厳格なアフマドと息子達を送り出した後、娘達と家事に勤しむ。子らの帰宅と共に、束の間の休息をコーヒーと共に味わい、噂話に花を咲かせ、後はひたすら主人の帰宅を健気に待つ…。まるで自分も彼女の子の一人にでもなったかのように錯覚し、家族の幸不幸の一つ一つに一喜一憂してしまった。彼らは誰も完璧ではなくて、むしろ欠点の方が多いくらいなんだけど、本物の家族と同様にどうしても憎めない。

三部作合計で1368ページの超大作、手にとって読み終えるまでに実に三年かかった本だったけど、一族の生と死を30年にも渡って刻んだ証だと思えば、日に一章どころか彼らの日常と同じペースで読むのが正解なんじゃないか考えてしまう程だった。本当に終わり方が憎い…。愛した人が亡くなって、その意思を継ぐ子にまた子ができて…連綿と続く人の営み、その醜悪さと唯一無二の輝きに、魅了され続けた幸せな読書体験だった。これを書き上げた作者にただただ敬意を表したい。間違いなく彼らと共に私はカイロの激動の日々を生きた。

第3位「眩暈」エリアス・カネッティ

眩暈(めまい) 〈改装版〉

眩暈(めまい) 〈改装版〉

こちらは世界文学の記事でブルガリア代表として選んだ作家の長編小説。

本当に題名通り、目が回り倒れそうになる程に途方のない作品だった…。どんどん早くなる輪舞にできる事は振り落とされまいとただひたすらしがみ付くのみ。ただ、読了した今こんなにヘトヘトなのに、刺激を求めてまた手を出したくなる自分がいる。麻薬のような中毒性のある一冊。

中国学の権威であり書物の蒐集家でもあるキーンは、教養のみを友とし、それ以外の人間を侮蔑しながら研究に没頭する毎日を送る。しかし一時の気の迷いで、家政婦であるテレーゼと結婚してから、金と愛に飢えた盲者達に貪られる運命が決する。せむしのフィッシェルレに玄関番のベネディクト他登場人物は皆それぞれの「真実」という妄想の中でのみ生き、己の欲のために他者を騙し嘘を重ねる。善意は存在せず、在るとしたらただ歪んだ認識の中でだけ。妄執の中に堆積する虚偽と誤解と虚偽と誤解…はやがて崩壊し、生じた狂気の渦に読者を呑み込んでいく。

今まで衆人を管理する政府や社会を描いたディストピア小説を好んで読んでいたけど、そんなトップダウンの狂気ではなく、本作の群衆によるボトムアップの狂気を体験したのは初めて。どちらもひたすら恐ろしい。安易に人に薦められる作品ではないけど、普段の読書に何か物足りなさを感じている人は、手を伸ばしてみてもいいのかもしれない。

第2位「遥か群衆を離れて」トマス・ハーディ

遥か群衆を離れて   (字幕版)

遥か群衆を離れて (字幕版)

  • 発売日: 2016/11/16
  • メディア: Prime Video

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!(床をのたうちまわる音と共に)マイ・ベスト・ラヴ・ロマンスランキングに堂々殿堂入りを果たした…。あの不動の一位の『嵐が丘』の地位も揺らぐ…。いや、この二作はある意味自分の中では対を成すので、不動の双璧と呼ぶに相応しい。もう何言ってるかよく分からないくらい心が昂ぶってしまうくらい素晴らしい作品だった…。

1840年代のイギリスの片田舎。叔父から農場を継いだ若い娘バスシェバは、羊飼いのオーク、大地主のボールドウッド、そして騎兵隊士のトロイに求婚される。彼女の揺れる心は事件に次ぐ事件を呼びー。オーク同様に、バスシェバの最も素が表れていたであろう馬上での天真爛漫な姿に一瞬で恋に落ちた自分としては、そんな彼女を損得なく愛すオークを応援するしか余地が無かったのだけど、ボールドウッドのウブさやトロイのキザさも愛嬌があって、読んでいて終始心乱れた。これもコリンズの『白衣の女』と同じくイギリス19世紀の連載物。この形態、続きが気になり過ぎて徹夜して読んでしまうくらいエンタメ性が高くて本当に好きだなぁ。歳をとるとなかなかそういう経験も出来なくなってくるし。下手なミステリーは勿論、少女漫画が束になっても叶わない程のドキドキ小説だった

しかし…日本で最後に出版された訳書が昭和44年…だと…?!書影すらない!!!仕方がないので映画化作品のリンクを張っておきます(まだ見てないです)。復刊熱烈希望です。

第1位「ペスト」アルベール・カミュ

ペスト (新潮文庫)

ペスト (新潮文庫)

  • 作者:カミュ
  • 発売日: 1969/10/30
  • メディア: ペーパーバック

断じて今絶賛拡散中のコロナウイルスに乗っかっている訳ではないです!が!2019年のマイベスト本はこちらでした、本当です…!プライベートで色々とあり、悶々としていた中、自分の悩みを解消し進むべき道を示してくれた救世主のような作品でした。この一冊に出会えて、本当に、本当に良かった。

アルジェリア北西部の町、オラン。当初は一匹だった鼠の死骸が山を成し、やがて死骸は人々の遺骸に取って代わられる。感染症という「不条理」に対する医師、聖職者、犯罪者、部外者、それぞれの反応は。

「生きてる意味ってなんだろうね」と(どうせ酔い過ぎて大したことも話せない中で)話題になる飲みの場が最近多い、三十路クライシス突入中の自分にとってとてもタイムリー。『異邦人』で描写される生の無意味さがあまりにドSで受け入れられなくて、裁判にかけられるムルソーよりもかける側の人間であることをつくづく思い知った身としては、本作で示される、無力と知りながら不条理に抗う人々の姿勢を肯定する筆者に心底慰められた。そして医師タルーの哲学が、眩しくて眩しくて…。私も、タルー程強くはないにしろ、「死」と「死をもたらすもの」には全力で抗い続け、例え無意味であっても「生」には最後までしがみ付きたいと思うように。『異邦人』ではよく分からなかったカミュが一気に身近に感じられるようになる作品でした。

関連作品:

シーシュポスの神話 (新潮文庫)

シーシュポスの神話 (新潮文庫)

  • 作者:カミュ
  • 発売日: 1969/07/17
  • メディア: 文庫

カミュの『異邦人』も『ペスト』も読んだ方にオススメ。ムルソーがなぜ殺人を「太陽のせい」にしたのか、タルーはなぜ放浪者として観察と記録に努めたのか、リウーはなぜ最後まで医師足り得たのか、カミュ作品の登場人物達の行動原理を紐解く一助となる作品です。

ベスト10一覧表

最後に

以上2019年のベスト本でした。割合としては世界文学の記事のために読んだ作品が多かったのですが、2020年はLGBT文学やアメリカ・ロシア文学、哲学書などを中心に読んでいきたいな、と思っています。ただ大抵年初に決めた指針は途中で忘れてしまうので、年末蓋を開けてみたらどうなっていることやら…。