ゴミ本なんてない

色々な本の読み方の提案をしているブログです。

1日で読み終わる短めの海外文学名作古典24選

本棚

今年は〇〇冊読むぞ!と目標を設定した方。はたまた、たまには国内小説だけじゃなくて海外文学でも読んでみるかぁ。でも時間がないし、長いのはどうせ途中で読まなくなっちゃいそうだしなぁ、とぼんやり思ったそこの方!いわゆる名作と言われる海外小説の中にも、早ければ一日でサクッと読める作品も沢山あるんです。意外と需要がありそうだったので、今回は解説も含めて、300ページ以内の名作海外文学作品を、ページ数順にご紹介します。どれも歴史に残る名作ばかり。これで読書目標も案外早く達成できるかも…。

変身フランツ・カフカ(121ページ)

変身 (新潮文庫)

変身 (新潮文庫)

あらすじ:ある朝、夢から醒めた主人公は巨大な害虫に変身していた。なぜこの様な姿になってしまったのか。果たして元に戻るのか。質問に誰が答える訳でもなく、残酷にも時は過ぎていく。彼に依存していた家族の態度も徐々に変化していき…。

感想:海外文学の最高傑作とも称される本作、実は凄く短いんです。カフカは難しそう、となぜか今まで忌避していた自分。この本の短さを知ってからすぐに読んでみましたが、意外にも読み易かったです。当時のユダヤ人の迫害を暗喩し、「疎外感」をテーマにした作品なのだとか。正直どのキャラクターにも共感し辛かったけど、蟲になった後の主人公がとにかく可哀相、と同時に健気で可愛らしく思えてしまった…背中に家族から投げつけられたリンゴをめり込ませたままの主人公…。なんて本だ。個人的には『審判』の方が好きですが、初めてのカフカには打ってつけの一冊です。

はつ恋イワン・ツルゲーネフ(137ページ)

はつ恋 (新潮文庫)

はつ恋 (新潮文庫)

あらすじ:わたしのはつ恋は苦い。16歳の時、別荘の隣に越してきた公爵夫人の娘に一目惚れしたものの、彼女に虜にされた男はわたしだけではなく…。

感想:タイトルから勝手に純愛物かと決めつけたのも束の間、読んで数ページで谷崎潤一郎の『少年』ばりの耽美な世界が広がり、だいぶ狼狽した。主人公もとんでもない女に惚れてしまったものだ。ただ、恋した女に「飛び降りろ」と言われ気が付いた時には地面に崩れ落ちていた主人公と、恋した男に鞭打たれるも怒りもせず身も心も委ねる女の心底ピュアな恋は、誰もが一度は経験したいと願うものではないだろうか。例えほんの一瞬であっても、自分という存在が消え去るような熱情を感じたい人にオススメ。

かもめのジョナサンリチャード・バック(140ページ)

かもめのジョナサン: 【完成版】 (新潮文庫)

かもめのジョナサン: 【完成版】 (新潮文庫)

あらすじ:飛行の世界は奥が深い。空中浮遊、急降下に宙返り。極めればどんなに遠い場所であっても、過去へも未来へも、一瞬で飛べるのだ。例えどんなに爪弾きにされようと、「好き」を求めてかもめのジョナサンは今日も高く飛ぶ。

感想:大衆に迎合するな、異端であれ、という強いメッセージ性を持った寓話。実にアメリカっぽい!ヒッピーブーム全盛期の頃に売れに売れた理由も分かる。自分が信じた道を進めば良いか、はたまた他人の意見に耳を貸せば良いか、迷いがある人は読めば背中を押された気持ちになる事必至。ただ、ジョナサンの様に「好き」が無い人にとっては、とても辛い作品にも成り得るなぁ。

異邦人アルベール・カミュ(143ページ)

異邦人 (新潮文庫)

異邦人 (新潮文庫)

あらすじ:「きょう、ママンが死んだ」。いや、あるいは昨日だったかもしれない。とにかく、母を亡くしたムルソーは葬儀を済ませ、次の日ガールフレンドとコメディ映画を見に行き、その後海辺でアラブ人を殺害したのだった。

感想:あらすじが怖過ぎる笑 フランス語の勉強がてら頑張って翻訳しながら読んでいたけれでも、途中で挫折した思い出深い?本。文体は至極読みやすいものの、理解はなかなか難しい。感情が欠如した、ほとんどサイコパスと言っても過言ではない主人公の突飛な行動から推測するに、人生の無意味さ、しかしそれに反して無理やり意味を見出し、ましてやそれを他人に押し付けようとする社会の不条理さを描こうとしているのかもしれないが、とにかく読み終わって暫く経った今でも未だ私は消化不良な「何か」の渦中にいる。

いずれにせよ「太陽が眩しかったから人を殺す」ような、それ以下でもそれ以上でもない人生は虚し過ぎるし、そんな孤独には耐え切れない。それであれば人生に意味があるのだという壮大なテーマを掲げた舞台の役者として、私は死ぬまで嘘の中で生きていきたい。例え舞台に上がる事を拒否する他人を死刑にしてでも。

外套・鼻ニコライ・ゴーゴリ(143ページ)

外套・鼻 (岩波文庫)

外套・鼻 (岩波文庫)

あらすじ:短編2編。『外套』ー超が付く程の倹約家が、布が擦り切れ反対側が透けて見えるまでになった外套をついに新調するも、不幸に巻き込まれる話。『鼻』ー官史の鼻がある日突然取れてしまい、さらには人格を得て一人歩きし始める話。

感想:あらすじにするとなんとも間抜けな短編だが、いずれも近代ロシア文学に革命の風を起こしたと言われるゴーゴリの代表作。浅く捉えればシンプルで笑える小話として楽しめるし、深く捉えれば人間の権威に対する欲や虚栄心を嗤った諷刺として考えさせられる物がある。個人的には『鼻』の方が荒唐無稽で好きかな。『外套』の主人公はいじましくも可愛らしくて、こういうキャラクターは変に感情移入してしまうから苦手。ただ白状すると、私がゴーゴリを判ずるにはまだまだ知識が足りなさ過ぎるので感想はここまでにします。

ベニスに死すトーマス・マン(143ページ)

ベニスに死す (集英社文庫)

ベニスに死す (集英社文庫)

あらすじ:並々ならぬ努力と自制心で、地位も名誉も手に入れた有名作家のアッシェンバッハ。新作の執筆に詰まった彼は、突然思い立ったかのようにベニスへとバカンスに旅立つ。そこで出会った天使のような美しさを持った少年。彼の圧倒的なまでの美、そして若さの前に、アッシェンバッハの自制心は崩壊し、ただただ少年に耽溺していくのだった。  

感想:前半、アッシェンバッハの人と成りを説明した部分が難し過ぎて心が挫けそうになったが、後半、特に彼が狂気に傾き始める頃からのストーリーがメチャクチャ面白い。アッシェンバッハの老いに対する恐怖、滑稽なまでの無駄なあがき。今はそれが悲惨にしか思えないが、果たして自分が彼と同年代になった時にもう一度本作を読んでみたら、どんな感想を抱くのだろうか。同一のテーマで書かれているオスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』と比較しながら読んでみても面白そう。

人形の家」ヘンリック・イプセン(148ページ)

人形の家(新潮文庫)

人形の家(新潮文庫)

あらすじ:愛妻家の夫、少し浪費癖があるものの、小鳥のようにかわいらしい妻、そして三人の子犬のような子供達。誰もが羨む家庭に、ある日貧乏神のような風貌の男が現れる。妻の唯一の秘密の握った男は、ある交換条件を提示するのだった。

感想:ノルウェーの国民的劇作家であり、近代演劇の父とも称されるイプセンによる劇作。全く予備知識なく読んだので、顛末が気になって気になって最後までページを繰る手が止まらなかった。果たしてハッピーエンド?バッドエンド?と震えていたら予想外の結末!そうきたか!劇作だからかキャラクターが少々誇張されているが、無駄なく配置された小物とサクサクした場面転換が見事。テーマ含めてとても好き。

それにしても妻、バカがモテるのを分かっていて頭の悪いフリをしてあげている現代の日本女性と全く同じでびっくり。それも日本では未だ女性の男性に対する経済的依存度が高いからか。『人形の家』の発表は1879年との事だから、約140年前のノルウェーと今の日本の状況が未だ同じ、という事に泣きたくなる。

ハツカネズミと人間ジョン・スタインベック(156ページ)

ハツカネズミと人間 (新潮文庫)

ハツカネズミと人間 (新潮文庫)

あらすじ:大恐慌時代のカリフォルニア。粗野だが面倒見の良いジョージと、知的障害を持ちながらも力持ちで心優しいレニー。農場を持ち、ウサギを育てながらのんびり暮らす事を夢見ながら、二人は日雇い労働者として働いていた。そんな彼らがやっと夢を掴みかけたその時ー。

感想:人を拒みもせず、受け入れる事もなくただそこに在る、広い広いアメリカの荒野で、ろうそくの灯のように小さな夢を追いながら生きる人々。主人公の二人、老いに怯える男性、仲間外れの黒人、女優を目指す女。そして夢を追う者は同時に孤独でもあり。たった少しの間でも互いに夢を共有できたジョージとレニーは間違いなく幸せだったと思う。短いながらもスタインベックらしさが凝縮された、宝石の荒削りな原石のような一冊。ちなみにゲイリー・シニーズ監督兼主演の映画もオススメです。

ジーキル博士とハイド氏」ロバート・ルイススティーブンスン(159ページ)

ジーキル博士とハイド氏 (光文社古典新訳文庫)

ジーキル博士とハイド氏 (光文社古典新訳文庫)

あらすじ:少女に大怪我を追わせながらも平然とした顔の男。ハイドと名乗るその男は少女の家族らに小切手を投げつけその場を去るが、署名は社交的で皆からの信頼も厚いジキル博士のものだった。博士の遺産が全てハイド氏に渡るよう示した奇妙な遺書を託された弁護士のアターソンは、博士が恐喝されているのではないかと懸念し、真相を突き止めるためハイド氏を探す事を決意する。

感想:ヴィクトリア朝時代のイギリスで、1886年に出版されたもの。元々は大衆娯楽小説として書かれた作品でしたが、まさか130年近く経った今でも絶えず読まれる不朽の名作になるとは、作者も思わなかったのでは。あまり詳細は分からなくても、タイトルのキャラクターの名前を聞いた事がある人も多いんじゃないでしょうか。善と悪の二面性。特に、別人格を形成してしまう程の、押し殺しようのない人間の残虐性は、誰しもが持ち得るものなのだろうか。短いながらもエンターテインメント性が高く、同時に色々と考えさせられる一冊です。

老人と海アーネスト・ヘミングウェイ(170ページ)

老人と海 (新潮文庫)

老人と海 (新潮文庫)

あらすじ:ベテラン漁師のサンチャゴは、老いと不運が重なり、不漁記録84日間を更新していた。しかし周囲の嘲笑や憐情には目もくれず、今日も大海に小さなボロ舟で漕ぎ出すのだった。残り僅かの餌に、ついに喰らい付いた大物マグロ。老人は3日3晩の死闘の末にー。

感想:アメリカの公立学校では必ず課題図書として読まされる名作古典。私も類に漏れず読まなければいけなかったものの、当時はどこが面白いのか本当に分からなかった。「ジジイの話のどこが良いのか」と誇張ではなく頭痛まで伴うようになったので、結局最後まで読まなかったのが、大人になった今再読してみると何故あそこまで拒絶反応が出てしまったのか不思議でしょうがない。純粋に老いや孤独、周囲の蔑みに負けず、不屈の精神で最後まで戦い続ける事自体に意義を見出す、人間賛歌の話なのに。当時の自分にとってはあまりにも遠い世界のものに思えてしまったのだろうか。それにしてもカミュの『異邦人』とは随分対照的なメッセージの作品だ。

クリスマス・キャロル」チャールズ・ディケンズ(189ページ)

クリスマス・キャロル (新潮文庫)

クリスマス・キャロル (新潮文庫)

あらすじ:誰に対しても気難しい厭世的な老人スクルージは、勿論クリスマスの時期も人の好意を受け入れるどころか拒み、唾を吐きかけんばかりの勢いで追い払ってしまう。そんなある日、死んで久しい旧友の霊が彼の家に現れ、態度を改めろと忠告する。その後、三体の精霊が過去・現在・そしてこのままだと迎えてしまうであろう未来を順番に老人に見せていき…。

感想:アメリカではクリスマスの時期に必ず本屋の店頭に並ぶ超名作。ディケンズは『二都物語』や『オリバー・ツイスト』などで有名ですが、どれも凶器並みに分厚い。こちらは珍しく気軽に読める一冊になります。暖炉の横で、人の優しさや温もりに感謝しながら読みたい寓話。

悲しみよこんにちはフランソワーズ・サガン(197ページ)

悲しみよこんにちは (新潮文庫)

悲しみよこんにちは (新潮文庫)

あらすじ:17歳のセシルと、女を取っ替え引っ替えしているまだまだプレイボーイな父。そんな二人と父の恋人エルザは、今年の夏も南仏のビーチで自由奔放な毎日を満喫する予定だった。が、亡き母の友人であり、美しくも厳格な女性アンヌが突然合流する事になる。父の心がアンヌに傾き始めた事を察したセシルは、ボーイフレンドを巻き込みある計画を企てるも…。

感想:なんという事だ、作者が17歳の時に執筆した作品だと…?!未だに信じられない程衝撃的。原稿を受け取った編集者が一読してすぐに出版を快諾したのも頷ける。読めば一瞬で眼前に広がる真夏のビーチ、十代が書いたとは思えない程卓見した人物の心理描写。凄いの一言に尽きる。

自分が憧れとし、文字通り鏡とするような女性が現れた事で、その鏡に反射した自分を初めて客観視するようになったセシル。そこからが早く、彼女は一晩にして目覚ましい成長を遂げる。そう、これこそが若さだ!なんて眩しい。物語の締め方に少し幼さが伺えるのもご愛嬌。セシルが毎朝コーヒーと共に食べているオレンジのような、「若さ」という果汁滴る青春の一冊です。

緋色の研究コナン・ドイル(201ページ)

あらすじ:ロンドンのとある空き家で見つかった他殺体。部屋の壁に残された血文字、死体から転がり落ちた結婚指輪。わずかな痕跡から犯人を導き出す、天才ホームズとその助手ワトソンの超有名タッグの事件手帖。

感想:物語の時系列的にも作品の発表順的にも第一作目と位置付けられる、シャーロック・ホームズシリーズの原点。個人的にシリーズの中で一番好きかもしれない。まさか犯人の動機の描写にあそこまでの文量を割くとは…。いきなり別の話が始まったと思って頭を殴られたくらいの衝撃を受けた。やっぱり犯行の動機が薄弱なミステリー小説は読んでで面白くないので、そういう意味でもホームズの事件は人間の浅ましさが良い具合にリアルで好き。そして何よりホームズ、格好良すぎる。実はまだホームズシリーズは読んでいない、という方がいらっしゃいましたら、是非、是非。

エレンディラガブリエル・ガルシア=マルケス(205ページ)

エレンディラ (ちくま文庫)

エレンディラ (ちくま文庫)

あらすじ:みすぼらしい天使の話、海の底に眠る村と死体の話、ある美しい娘と厳格な祖母の話…南米の海辺を舞台にした、不可思議な日常を描写した短編6編と中編1編を収めた一冊。

感想:あの村上春樹を始め様々な有名作家に影響を与えたと言われる、マジックリアリズムの巨匠、ガルシア=マルケスによる短編集。彼の代表作である『百年の孤独』や『コレラ時代の愛』に手を出す事を躊躇している方は、一旦こちらを読んでみては。彼の独特なスタイルや、不可思議でどこかノスタルジックなシーンが凝縮された一冊です。私にとってもガルシア=マルケスだけでなく、海外文学の門戸を開いてくれた思い出の一冊。是非沢山の方に読んで欲しいです。

動物農場ジョージ・オーウェル(208ページ)

あらすじ:人間の搾取に耐え切れなくなった農場の動物達が、ついに反乱を起こし主人を追い出す。全ての動物の自由と平等を約束した新生「動物農場」では、かしこい豚達の指導の下、あらゆる動物達が協力し合いながら労働に励んでいた。しかし、幸福な日々も長くは続かず、豚達による恐怖政治の幕が上がってしまう。

感想:1945年にイギリスで出版された社会風刺小説。当ブログのディストピア小説の記事でも紹介しています。寓話のようにシンプルな物語だからこそ、そのメッセージが鋭く刺さる。一度読了した高校当時は何の感慨もなかったのだけど、より多くの国の情勢に(少しは)詳しくなった今改めて再読すると、そのテーマの普遍性に舌を巻きます。権力に溺れた指導者が政治を牛耳るシリアやカンボジアなどに動物農場の姿を重ねずにはいられない。

選挙の時はどちらの側にも投票する猫や、老いているからこそ最初からどうなるか分かり切っているロバなど、個性的なキャラクターも多数登場。オーウェルと言えば『1984』ですが、この『動物農場』にそのエッセンスが多く詰まっているので、初オーウェルの方は是非こちらを先に読んでみてください。

ペドロ・パラモフアン・ルルフォ(223ページ)

あらすじ:母の最期の言葉通り、父親ペドロ・パラモを探しにコマラという街に辿り着いた主人公。しかしなんとそこは、死者の霊が未だ多く彷徨うゴーストタウンと化していた。徐々に朧げになっていく生と死、過去と現在の境界線。そんな世界で主人公はついにー。

感想:登場人物が多く、エピソードも語り手がしょっちゅう入れ替わり、時系列もめちゃくちゃなので、メモなしではなかなか読み進められない。蜘蛛の巣の様な人物の相関図の中心に鎮座するは、題名にもなっている「ペドロ・パラモ」。この世界の唯一神として彼が求めたものは、結局皮肉にも誰もが求める愛だった。

個人的にどう判じたら良いか分からない作品だけど、大好きなガルシア=マルケスの『百年の孤独』や『予告された殺人の記憶』がこの一冊から生まれたのがよく分かっただけでも、読んで良かったと思う。1日で読み終えてしまうには惜しい作品なので、今度はもっとじっくり時間をかけて読んでみよう。そういえば恩田陸の『ネクロポリス』とも雰囲気が似てるかも。

闇の奥ジョゼフ・コンラッド(227ページ)

闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)

闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)

あらすじ:船上、テムズ川の氾濫が落ち着くまで身体を休める男達。日も沈み、互いの顔も溶ける程の闇が包む中、マーロウという男が昔話を始める。まだ野心に溢れる若かりし頃、アフリカの大河を遡り、ジャングルの奥地で様々な男達と出会う。象牙交易で巨万の富を築き上げた男クルツ、彼を神と崇める現地人ども、そして彼らの死を願う者達ー。外界と完全に隔絶された闇の奥地で、それぞれの人間は己の深淵を覗き込む事になる。

感想:ものすっごく読み難い英語を掻き進んでなんとか読了。ページ数は少ないけどこれはもしかしたら1日以上かかるかもしれない。好きか嫌いかと言われればクドさもあってあまり好きではないですが、短いながらもシンボリズムたっぷりで、それを分析するためだけにもう一度読みたいと思いました。「視界」が奪われ「音」や「声」に重きが置かれる世界、ことごとく対を成す登場人物達、そして主人公が嫌う「嘘」。これらの謎を解きながら読むのはまるでミステリー作品のようで面白い。それに作者が訴えるメッセージには全くもって同感する。人間の闇は圧倒的に深い。何かきっかけがあれば底なしに深い泥で埋まる。場所が例えジャングルの奥であっても、都会の喧騒の中であっても。

エリ・ヴィーゼル(232ページ)

夜 [新版]

夜 [新版]

あらすじ:第二次世界大戦中、アウシュヴィッツに父子で収容された経験を持つ筆者の自伝的小説。ホロコーストの内実を、残酷なまでに忠実な描写で訴える。

感想:人生で一番泣いた本。嗚咽が混じる程号泣しながら読んで、次の日ほとんど目が開かなくなり、学校で友人らに散々な言われようだった。愛する父親を次第に重荷に感じるようになり、ついにはその死に解放感しか感じなくなったその時。神は死に、人は人ではなくなる。自らの魂が殺されるまでの日々を、筆者はどれだけの苦しみを追体験しながら、どのような想いで執筆したのだろうか。私には到底想像できない。ただこの本を書いてくれた事に、改めて敬意と感謝の念でいっぱいになる。

残念ながら作者は2016年に亡くなってしまいましたが、作品がこれからも後世に永遠に受け継がれる事を願って止みません。ホロコースト文学といえば訳題も似ているヴィクトール・フランクルの『夜と霧』の方が日本では有名ですが、是非こちらも多くの方々に読んで欲しいです。できれば次の日誰とも会う約束がない日に。

車輪の下ヘルマン・ヘッセ(246ページ)

車輪の下 (新潮文庫)

車輪の下 (新潮文庫)

あらすじ:大人しく、誰の言う事も聞く主人公ハンスは街一番の秀才だった。皆の期待を一心に受けながら、難関と言われる神学校の試験に見事合格。入学後も優等生として先生達の激励と称賛を受けるも、ある日偶然出会った少年に引き摺られるように、栄光の階段を転げ落ちていってしまう。

感想:ヘッセ自らの体験に基づいた自伝的小説。大人達の勝手な都合で、大人達の敷いたレールに乗り、車輪の下で擦り潰されて行く少年達の光景に胸が痛む。本作は1905年に出版されたものだが、この光景は現代どこの国でも未だ見受けられるもので。釣りが何よりも好きだった少年ハンスが疲れ、倦み、床から起き上がれない様子は、自分の広告代理店時代を思い出さずにはいられない。自分はうまく抜け出し今幸福を噛み締めているが、ハンスの様な結末を辿ってしまった人は沢山いる。一度自分の人生を客観視するためにも、是非読んでみて欲しい。

セールスマンの死アーサー・ミラー(248ページ)

あらすじ:一生のほとんどをセールスマンとして過ごしたウイリー。退職間近の年齢にもかかわらず、業績はずいぶんと前から低迷し、ローンは山積、友人に借金までする始末。成人した息子達も父親に似たのか、大きな夢を語るも行動は伴わず。それでも昔の栄光に縋る彼はプライドを捨て切れずにいた。

感想:ものの数十分で鬱になる劇薬小説。ここまで読んでいて息苦しくなる作品もなかなかない。尺的には一日で読み終えるに充分な文量なんだけども、いちいち精神統一しないと手に取れずだいぶ時間がかかってしまった。アメリカンドリームの幻影を描いたミラーによるこの劇、日本でも一億総中流という神話が完全に崩壊した中で、これからの身の振り方に悩んでいる方は是非今の内に読んでおいて欲しい。

飛ぶ教室エーリヒ・ケストナー(254ページ)

飛ぶ教室 (岩波少年文庫)

飛ぶ教室 (岩波少年文庫)

あらすじ:寄宿学校に通う四年生達による、クリスマス前の数々の冒険譚。勇気・知恵・力・優しさなど、それぞれの良さを持った男の子達が、互いの欠点を補い合いながら、日々成長していく。

感想:本記事で紹介しているヘッセの『車輪の下』と舞台は似ていても内容は全くの真逆で、心温まる物語です。男の子達の誰もが個性的、かつ良い子達ばかりで、まるで登場人物の「正義先生」や「禁煙先生」にでもなったかのように父性を垂れ流しながら読んでしまった。こんな優しい物語を、ナチス支配下のドイツで筆者は何を想いながら書いたのだろうか。クリスマスの時期、何かほっこりしたい物を読みたい方にオススメ。

若きウェルテルの悩みゲーテ(275ページ)

若きウェルテルの悩み (岩波文庫)

若きウェルテルの悩み (岩波文庫)

あらすじ:画家を目指すウェルテルは、引っ越した先で心優しく感性豊かな女性ロッテに心を奪われる。しかし彼女には既に許嫁がおり、叶わぬ恋を嘆いたウェルテルはついにー。

感想:言わずと知れた超有名作。1774年に出版された後、ウェルテルを真似た自殺者が相次ぎ、発禁処分になった程。序盤では天真爛漫で、幼ささえ垣間見えるウェルテルが徐々に苦悩に塗れていく様がリアルだった。しかし、ロッテの曖昧な行動はさておき、自分の都合で愛した女性に罪の意識を着せ自殺するのはいかがなものか。そんなに女が大切だったのなら、遠く離れた場所で彼女にバレない様に死ね、と思ってしまうのは非情過ぎるだろうか。結局は彼女を愛する自分を愛していただけだったんだろう。同じく失恋を題材にした武者小路実篤の「友情」の主人公の方が、滑稽ではあるものの潔くて好きだ。

ティファニーで朝食をトルーマン・カポーティ(282ページ)

ティファニーで朝食を (新潮文庫)

ティファニーで朝食を (新潮文庫)

あらすじ:駆け出し小説家だったあの頃、初めて手に入れた自分の場所、ニューヨークの狭いアパートメントの一室。その呼び鈴を毎晩のように鳴らすのは、社交界を蝶のように舞うソーシャライトのホリー・ゴライトリーだった。

感想:ヒロインの女性がとても個性的且つ魅力的。誰もが羨むような気ままさ、奔放さで社交界を跳ね回りつつも、どこか影を抱いているような。アメリカ文学では珍しいかも。主人公との恋人とも友人ともくくれぬ関係性は、嗜好も生き方も多様になった現代で、ますます増えていきそう。収録されていた他三つの短編も面白く、印象的。ハイチの男女の話、二人の囚人の話、老婆と男の子の話…。性別・年の差を超越した様々な「愛」の形を考えさせられた。特に老婆と男の子の話が好き。

伝奇集ホルヘ・ルイス・ボルヘス(282ページ)

伝奇集 (岩波文庫)

伝奇集 (岩波文庫)

あらすじ:『八岐の園』と『工匠集』という二つの短編集を合わせた計17編からなる短編集。架空の国の歴史や文化が現実を侵食していく『トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス』。世界のあらゆる事象を、無限に続く六角形の部屋から成る図書館の蔵書に収めた『バベルの図書館』。登場人物全員が壮大な暗殺劇の役者であった『裏切り者と英雄のテーマ』など。

感想:間違いなく本記事の中で最も難易度が高く、読解に時間がかかる作品。哲学・文学・言語学歴史学に通じた作者の底なしの知識の海から形成される、鏡合わせ・円環・永遠の分岐から成る世界。まるで幾何学模様を描いているかのような物語の牢獄に囚われて一生抜けられない気がしてしまう、そんな本です。個人的に本をモチーフにした話が大好物なので、『トレーンー』、『「ドン・キホーテ」の著者、ピエール・メナール』や『バベルの塔』が大好き。円城塔やケン・リュウ、マーク・Z・ダニエレブスキーなど売れっ子現代作家にも多大な影響を与え方事が分かる、非常に有意義な読書でした。また何度も、何度も、繰り返し読みたくなる事必至。

最後に

以上、怒涛の24冊です!いかがでしたでしょうか。どれも短くサクッと読めると冒頭では言ったものの、1日で読み終えてしまうには惜しい名作ばかりです。ゆっくり時間をかけて数章ずつ味わってみたり、あるいは何度も何度も読み返してスルメの様に味わってみたり。時間を置いて、10年、20年後に読んでみても、また新たな気付きがあると思います。

いずれの作品も時代や海を超え、多くの人間に名作として愛されているものだからこそ。海外文学というジャンル自体、敷居が高いと敬遠していた方々にも、是非本記事をきっかけに手に取ってみて頂ければ幸いです。

おまけ:国別作品リスト