ゴミ本なんてない

色々な本の読み方の提案をしているブログです。

ハヤカワepi文庫が本当に素晴らしい5つの理由

f:id:gomibon:20180224200530j:plain

突然ですが、皆さんハヤカワepi文庫という文庫レーベルはご存知でしょうか?「ハヤカワ」というとSFやミステリーというイメージを持たれる方も多いと思うのですが、実は海外文学の名作を数多く抱えているハヤカワepi文庫も大変素晴らしいのです!

元々「すぐれた文芸の発信源」として、英語で「震源地」を意味する"epicenter"から"epi"を取り、名付けられたレーベル。個人的には「美食家」の"epicurean"の"epi"でもいいと思うくらい、ハズレなしの、厳選されたラインナップなんです。

読書好きとしてはもっともっと多くの方にこのレーベルを知ってもらいたいと思い、今回ハヤカワepi文庫がいかに素晴らしいか、理由を5つ挙げてみました。

1.世界を舞台にした小説が読める

まずハヤカワepi文庫で最高な所は、海外文学のラインナップが豊富な事。他の出版社でも比較的手に入りやすいアメリカ・イギリス・フランス・ドイツ文学だけでなく、ハンガリーにタイ、南アフリカやトルコなど様々な国の気鋭作家の作品が読める点が魅力。その中でも特にオススメの作品をご紹介します。

悪童日記アゴタ・クリストフハンガリー

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

あらすじと感想:ハンガリーからスイスに亡命した作家が、フランス語で執筆した処女作。三部作の一作目。固有名詞はないものの、第二次世界大戦中のブダペスト包囲戦時の話と予想される。大きい町から小さい町へ、おばあちゃんの下に預けられた双子の「ぼくら」。戦争を生き抜くために必要な忍耐と残虐性を、ただ粛々と、淡々と鍛え上げて行く。信頼できるのは互いだけ。そんな毎日の特訓を彼らが本作である「日記」に綴る。

極限まで主観を削ぎ落とした文体が捉える人々の浅ましく残酷な行為は、誰しもが心に抱く人間の本質ゆえか?それとも、戦争という緊急時だからこそ引き出された人間の異常性か?答えは読書のあなたに委ねられる。

性描写がかなり過激なので確実にR指定ですが、双子が書いた文章という体をとっているので、非常に読みやすいです。ラストも衝撃的。個人的には、常に論理的に行動する双子が、ふと取る説明のつかない行動に、人間のいじらしさと愛しさを感じられて好きでした。そういった何気ない行為を探しながら読んでみてください。

観光」ラッタウット・ラープチャルーンサップ(タイ)

観光 (ハヤカワepi文庫)

観光 (ハヤカワepi文庫)

あらすじと感想:タイを舞台に、強靭かと思いきやどこか儚い、様々な絆のカタチを描いたタイ系アメリカ人による短編集。「ガイジン」東南アジアに住まう人々と、彼らをどこか下に見る外国人との微妙な上下関係を的確に捉えた意欲作。「カフェ・ラブリーで」貧しい兄弟の成長物語。「徴兵の日」唯一無二の親友との関係も、徴兵の日を迎えー。「観光」視力を失いつつある母と子の最後の観光。「プリシラカンボジア難民のとある女の子との一瞬の思い出。「こんなところで死にたくない」タイ人女性と結婚し、タイに移住した息子に介護される私の苦渋の日々。「闘鶏師」全てを奪われても、矜持のため闘鶏に命を捧げる父とその娘、など7編。

全体的に優しいトーンの話が多いですが、個人的には「ガイジン」と「こんなところで死にたくない」がタイトルに反して特に暖かい気持ちになれて好きでした。日本人の多くが観光のため訪れるタイの、知られざる日常が垣間見れる貴重な作品です。

恥辱J・M・クッツェー南アフリカ

恥辱 (ハヤカワepi文庫)

恥辱 (ハヤカワepi文庫)

あらすじと感想:南アフリカ出身のノーベル文学賞受賞作家、クッツェーによる小説。情欲を抑えきれず、教え子の一人に手を出し、非を認めない強情さから退職に追い込まれた大学教授の主人公。田舎で畑を耕し細々と生活を営む一人娘の下に転がり込むが、ようやく馴れてきたと思ったのも束の間、強盗三人に襲われてしまう。

「享受」がテーマかな、と漠然ながら思った作品。徐々に老いていく恥辱、不名誉な退職を余儀なくされ誰もからも蔑まれる恥辱、都会から田舎へ都落ちをせざるを得ない恥辱、娘の恥辱(ネタバレになるのでここはあえて濁します)、アパルトヘイト時代であれば使役していたであろう黒人に庇護される恥辱、こうした数々の恥辱に対し怒りをぶちまけ拳を振り上げるのではなく、一切を受け入れるまでの過程が、最後のシーンで描かれる。死と同様、起きてしまった事は逃げられるものではないから。シンボリズムやテーマが一度では咀嚼しきれない程多く、薄いながらも読み応えたっぷりの一冊です。

君のためなら千回でもカーレド・ホッセイニ(アメリカ)

君のためなら千回でも(上巻) (ハヤカワepi文庫)

君のためなら千回でも(上巻) (ハヤカワepi文庫)

あらすじと感想:60年代のアフガニスタンの首都カブールに暮らす二人の少年、アミールとハサン。前者は裕福な家庭の長男として、後者はその召使いとして、階級や民族の隔たりはあるものの、兄弟のように仲睦まじく日々を送っていた。しかし、ある事件をきっかけに二人の仲は決定的に決裂してしまう。時は飛び、2000年代。ソ連軍の侵攻を恐れアメリカに亡命したアミールは一本の電話を機に、タリバンの手に落ちた故郷にもう一度戻る事を決意する。

アフガニスタン出身の作家による本作。9.11を契機に中東情勢に注目が集まる2003年に出版された事で、全米で大ベストセラーに。当時高校生だった私も類に漏れず読んだのだけど、その内容に衝撃を受け、初めて「戦争に喘ぐ人々の力になりたい」と思うきっかけになった作品。何の因果か、中東で難民支援に携わるに至りましたが、そういう意味では人生を変えた本と言ってもいいかもしれません。

少々ご都合主義、ハリウッド的とも言える部分もあるものの、涙無しには読めない感動作。泣きに泣いた。ただ、アティーク・ラヒーミーの『灰と土』(こちらも名作です)のように、なぜこうも欧米や日本で手に入るアフガニスタンに関連する文学は戦争の哀しみに溢れているのか。そう考えると、やるせなさが襲います。

同じ作家の『千の輝く太陽』もハヤカワepi文庫で出版されており、こちらも舞台はアフガニスタン。紛争だけではなく、「女」に対する蔑視や虐待に抗う二人の女性を丁寧に描いています。『君のためなら千回でも』より更に哀しみが深く、リアル≒救いがない点を踏まえると、個人的には『君のためなら~』の方が好きかもしれない。

千の輝く太陽 (ハヤカワepi文庫)

千の輝く太陽 (ハヤカワepi文庫)

わたしの名は赤オルハン・パムク(トルコ)

わたしの名は赤〔新訳版〕 (上) (ハヤカワepi文庫)

あらすじと感想:16世紀のイスタンブールで、細密画家の一人が何者かによって殺害される。「私は死体」という衝撃的な死体の一人称から物語は始まり、各キャラクター、終いには犬の絵や赤色の顔彩までもが物語を紡ぎ始める。

トルコで初のノーベル文学賞を受賞した作家による代表作。押し寄せる西欧の文化に対する羨望、嫉妬、侮蔑に恐怖。既存の宗教に対する畏敬と疑念。時代や場所は違えど、それぞれの人間が胸に抱く葛藤の多くは誰しもが共感できるもの。また、絵を描く、作品を創造するとはなんぞやーという、ある種永遠のテーマにも非常に考えさせられた。エンターテインメントととして読むような作品ではないものの、とある時代のとある国の人々が囚われた問題は、現代の日本にも通じるものがあり、思考の糧になります。

日はまた昇るアーネスト・ヘミングウェイ(アメリカ)

日はまた昇る〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

日はまた昇る〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

あらすじと感想:第一次世界大戦に参戦し、結果、不能となった主人公のジェイク。長年思い焦がれた美女ブレットを手に入れられるはずもなく。7日間続くスペインのパンプローナで催される牛追い祭りを舞台に、酒に溺れ、釣りに興じ、自身を消耗する若者達を描く。

ヘミングウェイが26歳の時に執筆し、彼の地位を不動のものにしたと言われる名著ですが、ごめんなさい、好きか嫌いかと言われると好きではありません!第一次世界大戦、人類は過去に例を見ない程の大量殺戮を目撃し、希望や幻想はすっかり霧散。そんな時代を若者として生きねばならなかった「ロスト・ジェネレーション」が、その時々の快楽に身を任せ日々を無為に浪費していく、退廃的な生活を巧く捉えているのと思うのですが、毎日が!冒険と!夢で!溢れていて欲しい!と渇望する私には合うはずもありません。代わりにキャラクターが飲む酒の量が半端なさ過ぎてそっちばっかりに気を取られてしまった作品でした。え?この女ワイン1本ペロッと平らげてる…?ただこの作品が大好き、という友人も周りには多く、合う合わないは絶対あるはずなので、気になった方は是非読んでみてください。

2.隠れた名著が読める

「すぐれた名著の発信源」をモットーとして掲げているだけあって、名著尽くしのハヤカワepi文庫。ただ、中には日本国内ではだ〜いぶ知名度が低い作品もあり…。埋もれたままにしておくのはもったいない宝石、いや、金塊の様な名品が沢山あるので、まずは、読んで!

ビラヴド」トニ・モリスン(アメリカ)

ビラヴド―トニ・モリスン・セレクション (ハヤカワepi文庫)

ビラヴド―トニ・モリスン・セレクション (ハヤカワepi文庫)

あらすじと感想:もう!なんで!こんなに知名度が低いのか!この本を紹介したいがためだけにこの記事を書いたと言っても過言ではないくらい、名著、名著、名著なんです。筆者はアメリカのオハイオ州出身。人種差別問題を黒人女性の視点から描き、ノーベル文学賞ピューリッツァー賞など数多くの賞を受賞しています。本作も2006年には、アメリカの全国紙「ニューヨーク・タイムズ」により、「過去25年間で最も偉大な小説」に選ばれています。

ただ、ボーッと本を読みたい時にはオススメしない事も事実。何万人もの苦痛、恥辱、絶望、そして命の重さが込もっているから。登場人物達が一度見たものは一生記憶から消せなかったように、読者にとっても、一度読んだこの本の内容は一生記憶から消せないはず。ホロコーストを描いたエリ・ヴィーゼルの『』(詳しくはコチラ)と同様に、死ぬまで忘れない本になると思います。

南北戦争後のアメリカ。奴隷制度から解放されたはずなのに、過去の呪縛に未だ囚われたままでいる元奴隷達の生き様を描いた本作。主人公は、白人に捕らわれるぐらいなら、と自らの子を殺めた女性。殺しそびれたもう一人の娘と誰の手も借りずに孤独に生きていたある日、謎の女性が彼女の下を訪れる。

衝撃なのは、主人公が実在の人物に基づいている事。自分の子を殺してでも逃したかった現実は一体地獄以外の何だったのだろう。彼女と同じ農園で生活を共にした者達は様々な直接的暴力と迂遠的差別の末に、処刑された者、狂った者、消息を絶った者、過去を消した者、色のない世界で生涯を終えた者しか残らなかった。

容赦のない情景と人物描写のみならず、構成も秀逸な小説。登場人物の混濁した意識を描いたかのように、実際に起きている事と記憶の断片をどちらも掻き寄せた形で話が進みます。そのため、最初は見過ごしていた描写が後で実は重要な意味を持っていたと気づいて、慌ててページを繰り戻る事もしばしば。また、描写自体が直接的ではなく、帳が掛かっているかのような比喩的表現で語られる事もままあるので、キャラクターの脳内にしっかり入り込まないと理解できない様になっています。そしてそうした途端、彼らの感情の全てが肩に重くのしかかる。

中学生から高校生の必須図書にして欲しい程疑いようのない名作。人々の涙を吸い尽くしたかのようにずっしりと重い本を読む勇気のある方は、是非。絶対に損はしないと思います。

ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹ジェフリー・ユージェニデス(アメリカ)

ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹 (ハヤカワepi文庫)

ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹 (ハヤカワepi文庫)

あらすじと感想:「僕ら」はただ知りたい、リズボン家の五人姉妹がなぜ次々と自殺していったのか。ヘビトンボが大量に生まれ、死んでいく蒸し暑い夏の日に、13歳の末娘セシリアは窓から飛び降りた。姉妹達はそれぞれの形で後を追う。彼女達は一体何に惹かれ、何を恐れたのか。とあるアメリカ家庭の、青春と腐敗の物語。

ソフィア・コッポラが監督として手がけた映画『ヴァージン・スーサイズ』の原作でも知られる、ピューリッツァー文学賞受賞作家のデビュー作。一人称複数形の「僕ら」によるナレーションと、独特の台詞回しが印象的。

作者は次々と自動車メーカーが撤退し衰退していった、かつての大工業都市デトロイトでの子供時代をヒントに、アメリカが理想とする「一般家庭」が崩壊していく様子を描いたと言われている。実際どうなのかはさておき、アメリカのティーンエイジャーであれば誰しもが経験する青春時代の描写が本当に秀逸。まるで一つの生物の様に生きている姉妹と、彼女達を監視する「僕ら」の異常性を除けば、だけれども。ピーナッツバターやシリアルが入った食料品の買い出しリストや、高校生にとって最大のイベントであるプロムまでに至る数々の儀式など…ヘビトンボこそ飛んでいなかったものの、自分がアメリカで過ごした十代をまざまざと思い出す事ができた。あの思春期特有の執着と痛み、気だるさと危うさも。デビュー作でこれだけの描写力があるとは、本当に凄まじい。

アメリカの青年がバイブルとして掲げるとしたら、チャック・パラニュークの『ファイト・クラブ』。そして女子であれば間違いなく本作『ヴァージン・スーサイズ』を挙げるだろう(やっぱりタイトルだけは『ヘビトンボの〜』の邦題より原題の方が絶対に良いよなぁ)。

3.少し変わった意欲作が読める

一般的な小説の概念を覆す、一風変わった小説を読む事ができるのもハヤカワepi文庫の嬉しい所。下記2冊は海外でも大ベストセラーとなった本なのですが、いつもと違った読書体験がしてみたい方は是非是非手に取ってみてください。

夜中に犬に起こった奇妙な事件」マーク・ハッドン(イギリス)

夜中に犬に起こった奇妙な事件 (ハヤカワepi文庫)

夜中に犬に起こった奇妙な事件 (ハヤカワepi文庫)

あらすじと感想:隣人の犬が園芸用のフォークで殺害された。第一発見者の青年は、大ファンであったシャーロック・ホームズを真似て、犯人探しに繰り出すもー。

本作を開いてまずびっくりするのは、要所要所にある、細々とした不可思議な数式や記号に挿絵。実は自閉症の15歳の青年が書いた小説という体の本なんです。コミュニケーション能力は著しく乏しいものの、数学に滅法強い彼が書いただけあって、章も素数で表されていたり、芸が細かい。自閉症の主人公から見た私達を取り囲む世界はこんなにも情報過多で、無意味で馬鹿らしいものなのか、とハッとさせられる事必至。世間が求める「普通」とは何かを問う風刺作でありながらも、青年と家族の成長譚でもあったり。ミステリー小説の型には嵌められない名作です。

ちなみに世界中で舞台化されていて、日本でも森田剛主演で2014年に上映され、高い評価を得たそう。

ならずものがやってくる」ジェニファー・イーガン(アメリカ)

ならずものがやってくる (ハヤカワepi文庫)

ならずものがやってくる (ハヤカワepi文庫)

あらすじと感想:スティーブ・ジョブスの元カノとしても有名な、若手作家によるピューリッツァー 文学賞受賞作。有名音楽プロデューサーとその助手の二人を中心に、様々なキャラクターが登場し、時系列も人称も入り乱れた13章から成る作品。なんと、丸々パワーポイントで作成されたスライドショーの章まであります!笑 ふざけてるのかと思いきや、作者の文才と実力は本物。全体を通して聞こえてくるパンクロックの音楽のように、飛んで跳ねる、なかなか一筋縄ではいかない群像小説です。

物語のテーマは「ならずもの」である「時間の流れ」。「ならずもの」は、登場人物全員から平等に若さも、純真さも、栄光もカツアゲしていく。抗いようのない大波のような時間に、それでももがくか、流されるか、いっそ息を止めて諦めるか。それぞれのキャラクターの反応が見所。ただ、その「ならずもの」だからこそゆっくりと洗い流してくれる痛みも必ずある訳で。盗みやストーキング、セックスや酒に溺れるなどして自傷に走るキャラ達に心が痛むものの、同時に彼らの決してドラマチックではない人生を、とても、とても美しく感じてしまう。

4.カズオ・イシグロの作品がほぼ全作読める

2017年にノーベル文学賞を受賞し、今をときめくカズオ・イシグロ。そんな彼の作品がほぼ全てハヤカワepi文庫で読めます。自分はまだその内の二作しか読んでいないのですが、どちらも一人称視点の「信頼できない語り手」の叙述テクニックが秀逸でとても好き。イシグロ作品未体験の方、今の内に!

わたしを離さないでカズオ・イシグロ(イギリス)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

あらすじと感想:主人公キャシーは「介護人」として、長年同じ寄宿学校に通い、青春期を共に過ごした友人や初恋の人の看病に勤しむ。病院までの往復、車中で思いを馳せるは懐かしい学校での日々。淡い初恋や、友人とのささいな喧嘩。そして同時に思い出すは穢れに触れるかのように怯えた目をした教師や、一人、また一人と姿を消していった友人達の事。色々あったが、今思い返えばどれもかけがえのない大切な思い出でー。

読み進めていく内に、キャシーが懐かしむ「学校」のどこか奇妙なカリキュラムと腑に落ちない校則に、言い知れない気持ち悪さが募る。ただし生徒達に不思議な点は一切なく、恋に振り回されたり、学校内の迷信を馬鹿にしながらも心のどこかで信じてしまう純真な姿は、どこの学校でも見られる普通の光景で。主人公の回想を読み進める内に明かされる学校の謎に驚くと共に、来るべき悲劇に思いが至り、その瞬間から涙を流さずにはいられないだろう。

日の名残りカズオ・イシグロ(イギリス)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

あらすじと感想:長年執事としての「矜持」を保ち、「品格」を追い求めながら主人に仕えてきた初老の男。新しい主人の助言もあり、イギリス郊外を廻る短い旅に出る事に。車中で思い出すは、同じく執事であり鑑であった亡き父の完璧なまでの所作、前主人ダーリントン卿への敬慕。大戦中に持て成した数々の要人の顔、そして恋とは似ても似つかぬ淡い感情。しかし、次第に彼の心は揺れ始める。果たして本当にダーリントン卿は多くを犠牲にしてまで仕える程、誠意と正義の人間だったのだろうか?前主人の正当性を問う事は、翻って己の人生の正当性を問う訳で…。哀しくもどこか滑稽な一人の男の物語。

『わたしを離さないで』も好きだけど、主人公の可愛らしさが圧倒的なので最終的な軍配はこちらの方に。同僚のミス・ケントンに何の本を読んでいるのか問い詰められても頑なに教えず、無理矢理手からもぎ取ってみたら実は恋愛小説だったとか…もうね…なんやねん…。善意しかないキャラクターばかりなのも好き。そして本作のメッセージも心を打つ。結局大事なのは、「日の名残り」とも形容できる残りの人生をどうするか。好き好き好きの気持ちでいっぱいになった本。また年を重ねた後に読み返してみたい。

次に読みたいのは『忘れられた巨人』。イギリスの歴史を下地にしたファンタジーらしいのですが、なんだか勿体ない気がしてまだ読めてません。

忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫)

忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫)

5.ディストピア小説のラインナップが最高にして最強

人々が理想とする社会の真逆を描いたディストピア小説。好きなジャンル過ぎて二言目にはディストピアディストピア言っている程ファンで、わざわざ記事まで書いている程なのですが、ファンからするとハヤカワepi文庫の作品郡が最強の布陣過ぎて絶句。

ディストピアの世界に足を踏み入れたい方は、是非下記の作品を読んでみてください。上から下に読む事をゆる〜くオススメします。(ちなみに本記事上記で紹介したカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』もディストピア文学に分類される場合が多いです)

一九八四年ジョージ・オーウェル(イギリス)

ディストピア文学の最高峰と呼べるのでは。読むならまずはコレ。

動物農場ジョージ・オーウェル(イギリス)

ディストピア、読んでみたいけど時間がない!という方はコチラ。短いながらもエッセンスが凝縮されています。

すばらしい新世界オルダス・ハクスリー(イギリス)

『一九八四年』が気に入った方には次にコレをオススメします。サイケデリックでパンキッシュながらも正統派のディストピア小説。

侍女の物語マーガレット・アトウッド(カナダ)

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

「性」が管理される暗黒郷。時代を追う毎にリアリティが増していきゾッとする、そんな女性作家によるディストピア

蠅の王ウィリアム・ゴールディング(イギリス)

蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

人は自らの獣性に跪く。決して読んでいて心地良くはないですが、ディストピア10選があるとしたら、間違いなくランクインするであろう名作です。

時計じかけのオレンジアントニイ・バージェス(イギリス)

ハイハイハイゼア!スタンリー・キューブリックによる映画で有名なディストピア。出版から50年経った今でも世界中の若者から支持され、カルト的人気を誇ります。

ザ・ロード」コ―マック・マッカーシー(アメリカ)

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)

正確なジャンルは破滅してしまった世界を描く「ポストアポカリプス小説」になりますが、もう名作過ぎて紹介せずにはいられません。マイベストオブベストな一冊です。

それぞれの本を更に詳しく知りたい方は下記記事を是非ともご覧ください。

最後に

いかがでしたでしょうか。最近読んだ本や、読んでみたいと思った本がことごとくハヤカワepi文庫のもので、勢い余って愛を全力で叩き付けたような記事を書いてしまいました。

紹介した本の中には書店ではなかなか見かけないものもありますが、ネットであれば購入できるはずなので、惹かれた本があれば是非是非読んでみてください。ご担当の方に直接会ってお礼がしたいくらい大好きな文庫レーベル。この気持ちが少しでも多くの皆様に届けば幸いです。