ゴミ本なんてない

色々な本の読み方の提案をしているブログです。

新潮文庫の100冊(2017)を60冊読んでみた

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2017年も2016年に引き続き、新潮文庫の100冊にチャレンジしてみました!今回も矢張りバタバタしている内に記事の発表が年を跨いでしましたが…。

毎年やってるこの企画のおかげで、自分一人の意思じゃ絶対に手に取らなかったであろう名作と出会う事ができて、本当に感謝してます。普段は興味がなく絶対に読まない恋愛小説も手に取ってみたり。意外とジンとくるものが沢山ある…。

公式ページは下記をご覧ください。

新潮文庫のこの企画は、100冊の本を「恋する本」「シビレル本」「考える本」「ヤバイ本」「泣ける本」の5つのカテゴリーに分けて紹介しているのが特徴。2017年は上下巻除き、計101冊の本がセレクトされました。

カテゴリーの内訳は下記の通り(上下巻除く):

  • 恋する本 20冊(内13冊読了 65%)
  • シビレル本 24冊(内15冊読了 63%)
  • 考える本 15冊(内9冊読了 60%)
  • ヤバイ本 21冊(内10冊読了 48%)
  • 泣ける本 21冊(内13冊読了 62%)

今回は既読冊数が多く、39冊だったので、目標60冊達成のために21冊を新規で読みました。読んだ本は全部この記事の最下部にメモ代わりに記載してます。

その中でもオススメを、既読から5冊、新規で読んだものから5冊、計10冊紹介させて頂きます。中には昨年紹介したため今回は選書しなかったものもあるので、是非昨年の記事もご覧ください。

新規で読んだ本

第1位「錦繍」宮本輝

何が何でも<いま>を懸命に真摯に生きるしかないではありませんか。
錦繍 (新潮文庫)

錦繍 (新潮文庫)

弱くても良い、と背中をさすって励ましてくれるような本です。

10年も前に離婚した男女が、紅葉の錦重なる山の中で偶然再開する。始まる書簡でのやり取り。二人が長い歳月の中失い、得た物とはー。

昨年の「新潮文庫の100冊」で読んだ『螢川・泥の河』に感動してから気になってた作家の宮本輝さんの著。本作も更に良い!あらすじが「蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で…」と始まり、異国情緒溢れる表紙もあいまって「インドかどっかの国の本かな?」と勘違いしていたのですが、普通に現代の日本を舞台にした話でした…。なんだか表紙でだいぶ損してる気がする、この本。『螢川〜』を読んでも思ったのですが、著者は弱い人間の描写が本当に巧い。それぞれが「恥」としている部分一つ一つに共感でき、恥を抱えながら生きても良いんだ、弱くても良いんだ、と安心させてくれる力があります。なんとはない部分でもなんだか涙が出てきて止まらない本でした。人生に少し疲れた人に、小休止がてら読んで欲しい一冊です。

第2位「赤毛のアン」ルーシー・モード・モンゴメリ

この世の中にこんなに好きなものがたくさんあるって、すてきじゃない?
赤毛のアン―赤毛のアン・シリーズ〈1〉 (新潮文庫)

赤毛のアン―赤毛のアン・シリーズ〈1〉 (新潮文庫)

えええええ 今更『赤毛のアン』?!

と思われた方もいらっしゃるかもしれません。ごめんなさい、ごめんなさい!実は、大きな声では言えませんが、この年になって初めて読んだのです…。カナダの自然豊かな田舎が舞台の本作。孤児だったアンが無口だけど人情味溢れる老姉弟に引き取られ、周囲の人々の心を掴みながら元気に成長していく話です。天真爛漫かつ健気な彼女に、読者も心掴まれる事必至。私もアンの、世界の全てに感謝するようなポジティブシンキングにどれだけ元気を分けて貰えた事か。周囲の人々も一癖も二癖もある人達ばかりですが、皆心根は優しい。とにかく優しい世界に身を置きたい人にオススメの一冊です。

第3位「本屋さんのダイアナ」柚木麻子

私の呪いを解けるのは、私だけ――。
本屋さんのダイアナ (新潮文庫)

本屋さんのダイアナ (新潮文庫)

現代版『赤毛のアン』。

「大穴」と書いて「ダイアナ」と読むDQNネームのせいで、友人も出来ず、本の世界に逃げて暮らす主人公。そんな彼女に手を差し伸べてくれた彩子。彼女達の小学時代、中学時代、大学時代を追いながら、それぞれが一人の大人として自立するまでを描く。

赤毛のアン』と同様、多彩で心優しいキャラクターが多く登場するも、人間最後は自らの力で一歩を踏み出し、呪縛から脱却しなければいけないのだ、という力強いメッセージを含んだ小説。目を背けたくなるシーンが一箇所ありますが、それでも最終的には前向きな終わり方をするので安心してください。ガール・ミーツ・ガール的な作品としてはかなり作り込まれている良作です。あと、作者がフランス文学科出身だからか、沢山の本が登場する点も個人的に好き。『赤毛のアン』が好きな方は、是非本作も読んでみて欲しいです。

第4位「フェルマーの最終定理」サイモン・シン

私は真に驚くべき証明を見つけたが、それを書くにはこの余白は狭すぎる。
フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

巨人の肩の上に立つ。

「2017年読んで良かった本ベスト8」にも挙げた名作。17世紀、驚くべき証明を得たという書き置きを残し、この世を去ったフェルマー。彼の最終定理は長い間証明も反証もされず、そのまま永遠の謎として残るかと思われた。やがて360年以上の時を経た1994年、ある男がついに完全証明の偉業を成し遂げるまでの、数々の数学者達による苦難と格闘の日々を綴る。

数学の世界は淡々としているかと思いきや、アツイ。スポ根ものを読んでいるかと思う程、アツイ。数学者がたった一つの解に至るまで、これだけの数の人間の努力、懊悩、嫉妬、死があったとは。様々なヒューマンドラマを一冊の本を読むだけで垣間見る事が出来る事に感謝。また、数々の数学の定理を噛み砕きながら説明してくれているので、少し頭が良くなった気にもなれるお得な一冊です。

第5位「ある奴隷少女に起こった出来事」ハリエット・アン・ジェイコブズ

読者よ、わたしが語るこの物語は小説ではないことを、はっきりと明言致します。
ある奴隷少女に起こった出来事 (新潮文庫)

ある奴隷少女に起こった出来事 (新潮文庫)

  • 作者: ハリエット・アンジェイコブズ,Harriet Ann Jacobs,堀越ゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/06/28
  • メディア: 文庫
  • この商品を含むブログを見る

※下記は英文の原作を読んだ感想になります。本著はかなりの内容が削除されていると知り、個人的には容認できるレベルのものではないので、できれば原著をお読みいただくか、堀越ゆき訳は削除箇所が多分にあることを念頭に入れた上で読んでいただけると幸いです。

人間はかくも残酷になれるものなのか、と独り言ちずにはいられない。

元奴隷の、実話に基づく告白譚。幼少の頃からアメリカの奴隷制度については充分聞かされていたので知ってはいたけど、矢張り酷い、酷過ぎる。人間の尊厳を踏み躙る行為には、身体に対する暴力だけでなく、精神的・性的暴力も多分に含まれる事がよく分かった。特に、公共教育ではあまり扱われない性暴力がこの小説ではメインに据えられていて、奴隷に対する度重なるレイプが決して珍しくはなかった事が伺える。これらの悪行を行う者が人間であれば、主人公の自由のために手を貸す聖人達も同様に人間で―。人間という生き物の奥深さを痛感させられた。

奴隷を扱った小説では、トニ・モリスンの『ビラヴド』が今でも自分の人生に大きな爪痕を残しているのですが、それと比べたら本作は比較的暴力描写がライトな方。それでも書かれている内容には充分胸をかき乱される。自分の幼子を目の前にしながら、声を掛ける事もできず、押し入れのような場所で7年間も耐え忍んだ主人公の哀切は幾許か。2017年のピューリッツァー賞でも奴隷を題材にしたコルソン・ホワイトヘッドの『地下鉄道』が文学賞を受賞しているので、これを機にアメリカの奴隷制度について知識を深めたい方は手始めにこの一冊を読んでみてはいかがでしょうか。

既読だった本

第1位「罪と罰」フョードル・ドストエフスキー

選ばれた者は、凡人社会の法を無視する権利がある。
罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

私にとっては永久欠番の一冊です。

言わずと知れた名作。初めて読んだ時は、その世界を終わらせたくなくて最後の一章で読み進める事を辞めてしまった程。何度読んでも面白い。殺人に手を染めた主人公のラスコールニコフに、病んでいく彼を気に掛ける好青年のラズミーヒン、清廉で気位が高い妹のドゥーニャ、徹底的な自己犠牲を貫く聖女のソーニャ、悪を地で行くスヴィドリガイロフ、と様々な気概の人物が登場するのですが、読み進める内に彼らは誰しもが持っている、個人の内面を描写しているのではないかと感じるようになりました。悔悟、驕り、矜持、慈愛、僻み、恋慕、などの様々な感情が、この重厚な作品にこれでもかと詰め込まれている。これだけのボリュームの作品を読者を飽きさせる事なく読ませるのは流石としか言いようがない。あと、あまり声を大にして言えませんが、主人公が一番人間らしいと思うのは、私だけでしょうか。

同着第1位「星の王子さま」サン=テグジュペリ

あったよ、麦畑の色だ。
星の王子さま (新潮文庫)

星の王子さま (新潮文庫)

思い出しただけでオートで涙が出てくる一生物の本。

子供用の絵本と侮るなかれ、大人にこそオススメしたい、名作、名作、ひたすらな名作。砂漠に飛行機が不時着した際に出会った、小さな小さな王子様。彼は故郷の星を離れ、遠く旅し、ついに地球まで辿り着いたのだった。彼が出会った様々な人や生き物達。そこで学んだ事とはー。

人によって感動するシーンや言葉が変わるであろう点もまた面白いのですが、私にとっては王子様とキツネのシーンが一番思い出深い。別れの時がついに来、キツネが泣き出してしまう中、そんなに泣くのであれば最初から友達になって良かった事なんてないじゃないか、と王子様は言います。それに対して、キツネは「あったよ、麦畑の色だ」と答えるのです。王子様と出会った事で、麦畑の金色を見る度に、王子様の髪の色、ひいては王子様自信を思い出すから、と。今まで無味乾燥だった物事に彩りが添えられるのであれば、君との出会いは決して無駄ではなかったという意味合いのシーンは、ちょうど長年付き合っていた人と別れた直後の私にぶっ刺さり、それはもう号泣しました。今これを書いてるだけでも泣けてきます…。とにかく、これ以外にも胸に刺さる名言が沢山あるので、読んだ事がない、という方は是非、是非読んでみてください。

第3位「精霊の守り人」上橋菜穂子

私はお前を必ず守る!
精霊の守り人 (新潮文庫)

精霊の守り人 (新潮文庫)

こんな姉御が欲しい!

悪霊とおぼしき精霊に憑りつかれた新ヨゴ皇国の第二王子チャグムは、実の父に暗殺されかける。たまたまその場に居合わせた女用心棒バルサの手により、なんとか一命をとりとめるも、追手は目前に迫り―。アニメ化もされた人気長編ファンタジー。アニメが好きで好きで2周した程なんですが、小説も良い!映像では伝わらない、キャラクターの細かな心の機微が分かるのがやっぱり小説の醍醐味というもの。より人の醜さ、浅はかさが強調されていた点も少し意外だったかも。作者は人類学者だそうですがが、そのバックグラウンドからか架空の国や世俗の描写にも非常に説得力のある、読み応えたっぷりの名作です。

第4位「絶望名人カフカの人生論」フランツ・カフカ

将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです
絶望名人カフカの人生論 (新潮文庫)

絶望名人カフカの人生論 (新潮文庫)

「お前、しっかりしろよ」と思ってしまい、自分の悩みどころじゃなくなる本。

カフカが友人ブロートや父、恋人などに宛てた手紙の中から、名言(迷言?)を抜粋した一冊。セルフハンディキャッピング、自己破壊的予言、学習性無力感、と役満レベルのネガティプシンキングのプロフェッショナルだったとは知らなかった。良く自死せずにいられたな、と不思議なくらい。知れば知る程ブロート含め周りの人間はなぜこんなにもネガティブな彼との関係を維持していたのだろうか、不思議だ。確かにどこか憎めない愛らしさは、彼の作品からも、そしてこれらの言葉からも感じるのだけれども。何か落ち込むような事があった時は、これを読むと「下には下がいる」と感じ少し気が晴れます。

第5位「伊豆の踊子」川端康成

花のように笑うと言う言葉が彼女にはほんとうだった。
伊豆の踊子 (新潮文庫)

伊豆の踊子 (新潮文庫)

私にとっては初めての川端康成。

いわゆる「古典」と言われるからには難しいだろう、と気構えていたものの、意外にも肩肘張らずに素直な気持ちで読めた。短編の概要は以下の通り:『伊豆の踊子』どうにもならない孤児根性を治すため、伊豆へと自戒の旅に出た主人公。そこで出会った旅芸人の一座、特に14歳の「踊り子」の屈託のないあどけなさに徐々に心が洗われていく様を描いた青春物語。『温泉宿』温泉宿で働く女中達と、曖昧宿で春をひさぐ女達と。代表作よりこっちの方が全然好き。ここまで女性同士の遣り取りや心情をリアルに描けるとは。作者本人が女にでもなった事があるのだろうかと目を剥いた。『抒情歌』死んでしまったあなたとあの世で会うよりも、紅梅に生まれ変わったと信じ語らいかける方がどんなに良いか。こちらも好き。どんな陳腐な現代小説よりも失恋で傷んだ心に効きそうだ、とジーンとしていたら、作者が失恋の整理のために書いたらしい。『禽獣』代表作と打って変わって人間の酷薄さを巧みに表現している。反吐が出そうな主人公の考えや行動なのだけれども、一種の親近感を感じざるをえない。

行間を読ませる技法と、真意が後からつまびらかにされる倒置法的な構成に最初は戸惑いましたが、贅肉が一切排除された、美しい情景や心情に心を打たれました。

終わりに

という訳で二年目の試みとなった「新潮文庫の100冊」チャレンジ。やっぱり自分が普段は絶対に手に取らない本を読むきっかけになったり、読もう読もうと思いながらも積読にしていた古典を読む言い訳になるので、皆さんにもオススメです。本記事で紹介しなかった小説も、どれも名作ばかり。間違いなく普段よりは「外れ」の確率が減るはず。もしお時間があれば是非挑戦してみてください。

読んだ本:

1.『伊豆の踊子』川端康成 既読
2.『1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編』村上春樹 前後編  既読
3.『一日江戸人』杉浦日向子  既読
4.『江戸川乱歩傑作選』江戸川乱歩  既読
5.『きみはポラリス』三浦しをん  既読
6.『金閣寺』三島由紀夫  既読
7.『新編 銀河鉄道の夜』宮沢賢治  既読
8.『黒い雨』井伏鱒二  既読
9.『こころ』夏目漱石  既読
10.『塩狩峠』三浦綾子  既読
11.『ジキルとハイド』ロバート・L・スティーヴンソン  既読
12.『忍びの国』和田竜  既読
13.『シャーロック・ホームズの冒険』コナン・ドイル  既読
14.『砂の女』安部公房  既読
15.『精霊の守り人』上橋菜穂子  既読
16.『絶望名人カフカの人生論』フランツ・カフカ  既読
17.『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子  既読
18.『旅のラゴス』筒井康隆  既読
19.『沈黙』遠藤周作  既読
20.『月と六ペンス』サマセット・モーム  既読
21.『罪と罰』ドストエフスキー 上下  既読
22.『ティファニーで朝食を』トルーマン・カポーティ  既読
23.『トム・ソーヤーの冒険』マーク・トウェイン  既読
24.『夏の庭ーThe Friendsー』湯本香樹美  既読
25.『西の魔女が死んだ』梨木香歩  既読
26.『人間失格』太宰治  既読
27.『人間の建設』小林秀雄・岡潔  既読
28.『野火』大岡昇平  既読
29.『博士の愛した数式』小川洋子  既読
30.『向日葵の咲かない夏』道尾秀介  既読
31.『変身』フランツ・カフカ  既読
32.『星の王子さま』サン=テグジュペリ  既読
33.『母性』湊かなえ  既読
34.『燃えよ剣』司馬遼太郎 上下  既読
35. 『夜のピクニック』恩田陸  既読
36.『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』高橋秀実  既読
37.『楽園のカンヴァス』原田マハ 既読
38.『老人と海』ヘミングウェイ  既読
39.『ロミオとジュリエット』ウィリアム・シェイクスピア  既読
40.『ある奴隷少女に起こった出来事』ハリエット・アン・ジェイコブズ 7/23
41.『十五少年漂流記』ジュール・ヴェルヌ 7/31
42.『赤毛のアンー赤毛のアン・シリーズ1ー』ルーシー・モード・モンゴメリ 8/15
43.『フェルマーの最終定理』サイモン・シン 8/20
44.『魔性の子』小野不由美 9/28
45.『凍える牙』乃南アサ 9/30
46.『流れ星が消えないうちに』橋本紡 10/4
47.『儚い羊たちの祝宴』米澤穂信 10/8
48. 『車輪の下』ヘッセ 1/15
49.『飛ぶ教室』エーリヒ・ケストナー 1/15
50.『異邦人』カミュ 1/17
51.『本屋さんのダイアナ』柚木麻子 1/22
52.『ビルマの竪琴』竹山道雄 1/23
53.『痴人の愛』谷崎潤一郎 1/24
54.『蜘蛛の糸・杜子春』芥川龍之介 1/25
55.『錦繍』宮本輝 1/25
56.『さがしもの』角田光代 1/27
57.『コーランを知っていますか』阿刀田高 1/28
58.『よるのふくらみ』窪美澄 1/29
59.『こころの処方箋』河合隼雄 1/30
60.『銀の匙』中勘助 1/30